白兎とアリス

 つかまった。

 こんなに運動神経のいい女だと思わなかったんだ。



 追いつくはずがないと思って、手加減して走ってやったら、こいつたちまちタックルしてきて、あっちゅーまにオレをとらえてしまった。

 「女王様とお呼び」とか言ってる。

 女王はハートのクイーンただ一人だ。



 いててててヒゲはやめろ。

 あとオレの胴体を伸ばすな。

 おもちゃにすんな。

 デリカシーの無い女だ。

 耳をつかむな。

 ヒトの話聞-てんのか。



 オレはな、お前みたいな童女に興味はないんだ。

 第一、胸が無い。

 オレはな、女王様一筋なんだ。

 女王様はいいぞ。

 ムチムチで。

 歩くフェロモン。

 オレはただ、女王様に命じられてちょっとお前の気を引いてみただけだ。



 わかってんのか。

 聞-てんのか。

 崇高なオレの肉球を触るんじゃない。

 いつお前のペットになると言った。



 なんだ、角砂糖くれるのか。

 食べてやらないわけじゃないけどな。

 なんだ、毛づくろいしてくれるのか。

 されてやらないわけじゃないけどな。

 簡単にオレを籠絡できると思ったら大間違いだ。

 なんだ、耳そうじしてくれるのか。されてやらないわけじゃないけどな。



 オレはな、胸無しガキンチョに興味はないんだ。

 女王様一筋なんだ。

 ただちょっとケモノだから、毛づくろいとか、耳そうじとかに弱いだけなんだからな。

 いいか、もーちょっと右だ。あっ、そこそこそこ。