恋に生きる

 ううっ、くそっ、負けないぞっ!

 オレはヴァンパイアの貴公子だ。

 こんなことぐらいでくじけてたまるか。

 アイリスと一緒になると決めたんだ。

 約束したんだ、迎えに行くって。



 彼女の血を飲んだ時に、オレは自分の運命を理解した。

 オレは彼女を守り抜く。

 オレは彼女の絶対のしもべとして生きる。

 だからオレは、主の彼女のもとへ帰らないといけないんだ。

 もう他の女の血は飲まない。



 もう一度、彼女の血を飲んだ時、彼女はオレの主君になる。

 契約が成立するんだ。

 オレはそれまであきらめない。

 ゆずれない。彼女だけはゆずれない。



 もう11月。

 本格的な冬が迫ってる。

 オレ達ヴァンパイアは冬に弱い。

 でも春まで待っていたら、彼女は他の男のものになってるかもしれない。

 負けられないんだ。

 ゆずれない。

 何としても彼女と契約する。



 最大の難関は、オレと彼女の契約を許そうとしない彼女の父親だ。

 この凶悪な薬品臭も、あいつの策略だ。

 くそっ、はねがしびれてきた。

 彼女の所まで飛んでいきたいのに、だんだん高度を保てなくなってる。



 あの父親、手をゆるめる気はないようだ。

 薬品を使うなんて、なんて卑怯な男だ。

 すぐ目の前にアイリスが横たわっているというのに、オレの指先は彼女にかすりもしない。




 あいつは下からオレを睨みながら、しゃがんだ姿勢でパタパタ団扇をあおいでいる。

 薬品がオレにあたるようにダメ押しをしてるんだ。



 あの目、本気でオレを憎んでる。

 オレは彼女に捧げてるだけなのに凄まじい憎悪だ。



 オレはどんな悪いことをしたのだろう。

 くそっ、落下しそうだ。

 この薬は〇ナか〇ースか、違うな、〇ンチョーだ。

 くそっ、もうだめだ……! 

 日本の蚊取り線香って効くからなあ……! 

 うおっ、ポットンだ。