はじめに

旧作なので、ブルーフェニックスに修整する前の「ハーメルン」と、御門凪に修整する前の「帝凪」で書かれています。直すので時間をください。

第一章

[眠り姫1]


東祥子は三十歳の時から複数の人物に付きまとわれるようになった。外出が辛くなり、ネット通販で買い物をはじめた。



すると配達員からハラスメントを受け、買った食品には睡眠薬や痺れ薬を混入されるようになった。



彼女はインターネットで集団ストーカーの情報にたどりつき、精神科に行かない方法を必死に模索した。



しかしある時意識がなくなり、目が覚めたら病院で、統合失調の診断を受けた。彼女は三年間入院させられた。



彼女は退院してまたネット通販を利用し始めたが、やはり薬物混入をされた。食べ物を注文したのに、食べ物でないものが届く。



安全な食べ物を得るためには、外出して買い物し周囲から嫌がらせを受けるしかなくなった。彼女は飢えに苦しんだ。



統合失調の診断を受けた以上、証拠をあげなければ彼女の妄想にされる。彼女は睡魔と闘いながらブログを開設し、血圧計の記録をあげた。しかし、一般に販売されている血圧計は、低い値が出ないことを知った。




証拠を出せないのなら食物を吐いた方がいい。彼女はトイレで吐きながら、ペットに先に食べさせ、ネット上に動画投稿することを考えた。しかし、借りてるアパートがペット禁止で断念した。




彼女はある時友人を自宅に招待し、証人になってもらうため、黙って異物の入った食品を出した。食べた友人が体調不良を起こしたところまではよかったが、翌日から周囲の人間が「祥子が毒を盛った」と騒ぎ始めた。




警察の任意の事情聴取の期間は異常に短かった。祥子は天山警察署に逮捕され、家宅捜索までされた。




彼女は訴えた。

「私は被害者です」

「家から薬物入りの砂糖が見つかった。どこで入手したんだね」

「通販商品に入っていたんです」

「故意に薬を入れる通販なんてあるわけないじゃないか」

「薬物入り食品は証拠として家にとっておいたものです。私は被害者です」

「だからあ、どこで薬物入り食品を入手したのか聞いてるんだよ」




祥子は事情聴取の間、刑事施設で食事を出されたが、そこにも睡眠薬が入っていた。次の日の朝食も昼食も。



祥子がトイレで吐くと、近くにいた女性警官が騒ぎ始め、医者まで出てきて“摂食障害”ということにされた。



のちに彼女が統合失調の診断を受けていることが明るみになり、“妄想性摂食障害”とされた。警察の食事強要はますます厳しいものとなる。




祥子の食事拒否が続くと、飲料にも薬を入れられるようになった。彼女は生水を飲もうとしたが、ばれると拘束され、薬物入りの水と食物を無理矢理とらされた。“本人の生命維持のため”という名目だった。




祥子は訴え続けた。

「睡眠薬を入れられるんです!」

「警察がそんなことするわけないでしょ!」




祥子は食事の時間に刑事施設から逃げようとしてパニックを起こした。

「毒を入れられるんです!」

「あなたは統合失調です」

「吐かせて!」

「いけません」

「殺される!」

「妄想です!」




彼女は鎮静剤を打たれ、睡魔に苦しみながら尋問を受けるようになった。壮年の取調官、山崎が問いただした。

「どこで薬物入りの食品を入手したんだね」

「インターネットで買いました……」




その時だった。

「山崎さん」

「何だ、相武」

取調室に女性警官がやってきた。年齢は不明。




「容疑者の着替えから更なる薬物が検出されました。物が物ですから話は女性同士の方がいいかと」

祥子は遠のく意識をかき集めながら抵抗した。

「薬品なんか持ってない」

山崎は突き放した。

「話は相武が聞く」

(続く)





第二章


[眠り姫2]


相武は祥子を誰もいない更衣室へ連れ込んだ。鍵を閉めた後、何を考えたのか窓を全開にする。そして更衣室についている小さな流しに詮をした。




相武は言った。

「吐いて」

「えっ」

「吐きたかったでしょう。ここに好きなだけ吐いてください。私は警察の天敵」




祥子は睡魔に苦しんでいなかったらむしろ疑う方を選んだかもしれない。しかし、今選択肢はなかった。倒れてしまう。彼女は流しに吐いた。





終わると相武が背中を叩いて、ハンドペーパーで顔の汚れを拭き取ってくれた。




嘔吐の威力は馬鹿に出来ないもので、祥子は意識を回復した。体力を使った分ダメージはあるが、毒を出したら立ち上がる力がよみがえった。




相武はポケットから紙ナプキンを出した。それを汚物に浸すと、白かったナプキンにハートのクイーンの柄が現れた。




「人体に害のある薬物反応です。あなたは摂食障害でもなければ、ドラッグの運び屋でもなく、統合失調でもありません」

「相武さん」

「偽名です。私はハーメルンの舵涼子。助けに来ました」




“ハーメルン”ーー警察に対抗できる武装組織の存在は、祥子は都市伝説でしか知らなかった。




涼子は祥子が逮捕された情報と、彼女のブログ情報を照らし合わせてやって来たと言った。



涼子は紙ナプキンについても説明した。素人でも薬物検査できるように開発されたものらしい。まだ日本に上陸していないため、ハーメルンで確保された。




「でも、この吐瀉物はちょっと……」

「証拠品としてハーメルンでいただきます」

涼子は更衣室のドアを開けて人を呼んだ。祥子の知らない女性が入って来る。

「潜入中のハーメルン隊員です」




続けて涼子は祥子に笑いかけた。

「女性のものは女性がね」

名も知らない女性隊員が汚物に粉を振りかけ、一瞬で凝固させてしまった。




涼子は更衣室のロッカーを開けた。中に衣服でないものが入っている。彼女は出したペットボトルを差し出した。

「清涼飲料水です。解毒剤と栄養材もあります」

祥子は全て受けとり、必要なものを摂取した。もう疑いはしなかった。




涼子は消臭スプレーを自分と祥子にかけ、一緒に部屋を出るように促した。取調室に戻る。待機していた山崎が訪ねた。

「相武、終わったか」

「はい。どうあっても知らないと言っています」




山崎は祥子を嘲るように鼻を鳴らした。

「まあいい。じっくり聞こう。それより東は食事の時間だ」

「相変わらず嫌だと言ってますよ」

「死なれたら困る。高杉、東の食事を手伝ってくれ」




女性警官、高杉が進み出た。三十代くらいだ。祥子が涼子を見ると彼女は頷いた。祥子の胸に勇気の火が灯った。

(続く)






第三章

第三章




「東さん、食べてください」

「嫌です」

祥子は冷静に断った。高杉は祥子を休憩室に連れてゆき、食事を強要していた。食堂での問答は周囲への配慮に欠けると高杉が考えているからだ。


回りには昼食を終えて一服中の警官がちらほら。もう煙草の時世ではないので、コーヒーを飲んでいたり、読書や世間話をしている。


高杉は強気だった。

「警察署で死なれたら困るんです」

「あなたが食べたら食べます」

「東さんの食事です!」

高杉は常に不自然だった。祥子を妄想性摂食障害の患者と思っているなら、むしろ安心させようとして毒味するはず。しかし、断固しない姿勢を貫いた。祥子は食い下がった。

「試しに毒味してください」

「警察が毒なんか入れるわけないでしょ!」

その時だった。

「そうだよね!」

「きゃあ?!」

高杉が歩いてきた男性警官に吹っ飛ばされた。最後に締め技を食らっている。男性警官は言った。

「手荒なことしたくないんだけどさ、女性警官って強いから手加減出来ないんだ。ごめんね」

彼はにっこり笑った。高杉は動揺した。

「神田、どういうこと?」

「偽名だ。おれはハーメルンの帝凪(ミカド・ナギ)」

一瞬、間が開いたが、高杉は事態を理解して戦意をむき出しにした。同僚に一喝。

「坂本、何をしてるの」

「おれは若鷺仁だ。よろしくね」

呼ばれた男性職員は言った。こちらもハーメルンか。高杉は青くなった。

「まさか」

「そのまさかだよ。みんなスパイさ」

凪が言った途端、周囲に座っていた休憩職員が全員整然と立ち上がった。


仁も凪も若い。おそらく二十代。仁は凪達のそばに歩み寄り、後ろポケットから紙ナプキンを出した。祥子に強要されたビーフシチューに浸す。ハートのクイーンの柄が浮き上がった。

「大量の薬物反応」

ハーメルンは何事も手慣れていて、感情的になる隊員はいなかった。


祥子は優しい物腰の仁の横顔に、憂いをたたえたマリア像の面影を見た。彼が特に悲しんでいるとは思えなかったが、器の大きな者は美しい。美しいものって時々憂えて見える。見る方がせつなくなるからだ。


凪は問いただした。

「高杉、どういうことだ」

「何のことだ」

高杉はしらをきった。凪もしれっと続ける。場馴れした女戦士のよう。

「食事を運んだのは誰だ」

「朝長」

「作ったのは」

「給食係」

「食材を揃えた奴と、提供した奴」

「ーー」

「それを命じた奴は?」

「そんなの知らーー」

凪は匂い立つ唇で爆発的に艶っぽく笑った。

「そうか。じゃあまるごと取り締まる」


その時警察署に警笛が鳴り響いた。休憩室に複数の警官が駆けつける。高杉は叫んだ。

「スパイが紛れこんだ。捕獲しろ!」

凪達は銃を構える警察側に囲まれた。祥子の前に仁が出てかばう。しかし、凪が降参して高杉を解放する前に、潜入メンバーの中の誰かが一喝した。

「第四班、機動!」

途端に潜入部隊を囲んでいた警官側が、自分たちで勝手に取っ組みあいはじめた。


祥子はハーメルンの潜入規模の大きさを理解した。おそらく高杉も。凪の方は高杉が床の黒い突起を片足で踏んでいるのを見つけたようで、締め技をかけながら面白そうに笑った。高杉は勘に障ったのか、殺すような目で彼を睨んだ。


凪は高杉から手を放した。起き上がろうとした彼女のみぞおちに一打。高杉が昏倒する。

「悪かったね。ハーメルンに人質は必要ないからさ」

ハーメルン側の司令塔が再度一喝。

「牧田、祥子さんの護衛。残りの第二班、四班に続け!」

「了解!」

牧田なる男性隊員が進み出て祥子の手を握るや、他の休憩室潜入部隊員が警官を相手に躍り狂いはじめた。

(続く)




第4章

[眠り姫4]


天山警察署は、集団で潜入したハーメルン側のスパイと対峙することになった。



二十代の男性警官、富岡のグループは、同じ二十代の一人の男性潜入隊員を囲むことになる。潜入隊員は細く飄々として、面白がるように笑っていた。




彼が動いた。富岡は名も知らない相手の身体が溶けて、なまめかしいメスのビーストになったのを見た。見たはず。



次に富岡達は腰を抜かしていた。潜入隊員が甘い吐息を吐きながら、頭をへこんだデスクから抜き出しているところ。

「瓦割り!」

警官仲間の誰かが叫んだ。




潜入隊員がただかったるそうな動きだったら富岡も男と確認したかもしれない。しかし、相手のしなる身体と倦怠感が匂い立つ女性のよう。



いや、しかしーー今富岡の目の前にいるのは、メスでもビーストでなく、間違いなく男性だった。




潜入隊員の右肘が的を外して壁のクレーターになった。




瓦割りなど警官にだって出来る者がいる。何を恐れる。富岡は潜入した相手の美貌に生唾を飲み込み、自分を裏切る自分に気づいて戦慄した。




仁はかかってくる警官と組み合いながら、凪に神経を配った。仁より一つ年下で手が焼けるので第三部隊全体の弟みたいな存在になってる。仁もついつい肩入れ。




第三部隊員が世話を焼くのはみんな同じなのに、仁が凪に甘すぎるのか、仲間に兄貴とか呼ばれる始末。

「凪、威嚇はもういい。相手を減らせ!」




同じ武道家でもある涼子もすぐ近くで警官を吹っ飛ばしている。

「帝君、体力を大事に」

凪は仲間には素直。

「わかったよ」




彼は瓦割りをやめて警官の中に突っ込んでゆく。仁達と違って、野生児か、乱心した獣のように踊る。時々女性になって警官に絡み付き、文字通り悩殺している。



仁も涼子も、そこに見えるのが凪なのか、メスのビーストなのかわからない。でもそういう現場は慣れた。

「まったくあいつは」

仁は組み付いて来る警官をさばきながら、内心辟易としていた。





牧田の護衛がついた祥子だが、それは形だけで、仁たちハーメルンは特に彼女に神経を配っていない。



警察と集団ストーカーは被害者をいじめ殺すが、法に抵触することはしないからだ。彼女をハーメルンから奪って人質にしても、警察側に何の益もなかった。





ーー1時間後、ハーメルン第三部隊により天山警察署制圧。




「やられたのか」

仁は凪の口の回りの鮮血に肝を冷し、駆け寄った。凪はまだヒートアップが止まらないようで殺意に色めき立った瞳をしている。陶酔の海の中。

「おれのじゃない」

言いながら口から何か吹き出した。どう見ても血にまみれた肉片。



叱っても仕方ない。仁はたたみかけた。

「反則はいざという時だけだって言ってるだろ」

「おれから反則とったら何が残るんだよ」

凪がむっとする。仁は肩を落とした。

(続く)





第五章

[眠り姫5]


「じゃあ山崎、これ食べて」

「お前が先に食え」

「あんたのための食事じゃないか。餓死されたら困るんだよ」

天山警察署、取調室。




山崎は席についてハーメルン隊員に囲まれていた。目の前にはビーフシチューが置かれ、凪に食べる事を強要されている。山崎は頑なに拒否。




「仕方がないな」

凪はコップの水に砂糖を流し込んで山崎の前に置く。

「せめて糖分だけでもとれよ」

「嫌だ」




凪が拳銃で発砲。山崎は弾丸が自分の耳元を通過したのを知って凍りついた。凪は山崎に銃を向け、歴戦の娼婦のように屈託なく笑った。




「食べないと指一本ずつ吹っ飛ばすよ」

山崎は気が遠くなった。

「濡れ衣だ」

凪がまた発砲。




山崎は歯の根が鳴るのを必死でおさえた。

「容疑者は天山警察署の全員じゃないか。第一、誰も犯人と決まってないし」

「犯人は永久に現れないさ」




凪は説明した。集団ストーカーの証拠がとれたら、制裁対象は被害者に危害をおよぼした組織関係者と、ハーメルンの仕事に抵抗した人間だと。



ハーメルンに抵抗した人間ではない。仕事に抵抗した人間だ。一般人は抵抗する意味がわからない。凪達はそこから犯人を見破る。




「おれは要職でないのに、何故拷問されるんだ」

山崎がこぼすと凪が答えた。

「見せしめだよ。あんたら責任の分散して逃げるだろ。集団ストーカーが捕まったら誰か一人がおれの玩具になるってわけさ」




「そんなバカな」

「おれが恐くないならのうのうと集団ストーカーやってればいいじゃないか」

凪がもう一度発砲。

「ただで帰れると思うなよ」




彼がスプーンでビーフシチューをすくって差し出した。山崎は椅子から転げ落ちて部屋の隅に逃れた。




山崎が壁と背中合わせになると、凪が獲物を狙うメスの白蛇のようにゆっくり歩み寄った。妖艶でねっとりとした動き。



凪の頭から長髪がどっと流れ落ちた。腰はあでやかにくびれ、眩しい胸元はほんのりふくらんだ。




いつの間にか取調室はなくなった。あるのは山崎の背後の絶壁と、ビーフシチューの乗った机だけ。山崎は濁って渦巻く虚空と足元の泥沼に挟まれていた。




突然風がどうと吹いた。山崎の足元の沼が沼でなくなる。それらは黒い鳥の群れとなって、けたたましく飛び立ちはじめた。



山崎は巻き込まれて目が眩んだが、しばらくすると鳥の気配がなくなった。彼は再び瞳を開けた。




凪が山崎ににじりより、なだめるように彼の胸元に手を滑らせている。一方で右手のスプーンを山崎の唇に触れさせる。




「はい、あーんして」

山崎は男声と女声の融合したものを聞いた。凪の色香から逃げられず、心臓は破裂しそう。シャツは冷や汗ですでにぐっしょりだ。




凪は左手を山崎の首に回し、その手で彼の顔の輪郭ををゾロリと撫でた。凪の肢体が山崎の素肌に甘だるくしなだれかかる。



「大丈夫、ほんの一口。ね、あーんして」

今度は本当の女声。山崎は暗い熱夢の恋に転落し、スプーンをなめてしまった。




山崎が生唾を飲み込むと、芳醇なシチューも喉を通過していった。山崎が気がつくと真正面に男性の凪が立っていた。

「美味しかった?」

流れる長髪などどこにもない。大型猫の子供か、小鬼のように、はつらつと笑っていた。




「わあぁぁぁぁぁぁ!!」

山崎は恐慌して凪と取り巻きを突き飛ばした。取調室の外に脱出。

「誰か助けて! ハーメルンに殺される!!」




何故か山崎を追いかけるハーメルン隊員はいなかった。山崎は自宅に駆け込んだ。彼が取り乱したことから、夕方、心配した家族の手で精神科に連れていかれる。




医師は言った。

「周囲の信号を過剰に受け取ってしまう人がいるのです」

「おれは統合失調じゃない。ハーメルンに薬を盛られた!」

「その後、どんな体調不良がありましたか?」

山崎は息を飲んだ。何も答えられなかった。





「こんなに美味しいのに」

その頃、凪はハーメルン本部。山崎に与えたビーフシチューを温め直して、二回目のおかわりをもりもり食べていた。薬物なんか全然入ってない。




第三部隊長は大柄な壮年の男性。彼が腕を組んで、渋面で凪を見下ろしていた。

「悪い子過ぎるんだ」


ーー(次はエピローグです)






エピローグ

[眠り姫6ーエピローグー]


「はい、あーんして」

祥子は少女の口からスプーンを出して笑いかけていた。ハーメルン本部の広大な中庭。陽光がさんさんと降り注いでいる。気持ちのいい正午。




祥子は純白のベンチに腰かけている。さっきまで並んで座っていた少女はじっとしていなくて、立ってしまった。

「いい子ね」

少女は小さな口をもぐもぐ。



多分十歳くらい。長い髪は伸び放題で、顔はほとんど隠れ、スカートの下は裸足。暖かい季節なので風邪をひく心配はないが、怪我したら大変だ。




「凪、こんなところにいた」

仁は探していた後輩を見つけ、祥子に会釈した。

「凪とご飯ですか?」

「そうなんです。凪はキノコのリゾットが得意だって、差し入れてくれて」

仁は笑った。

「凪、優しいな」

祥子が続く。

「凪、優しい子」



少女は下向きにスカートの裾をつまんで、いじりはじめた。



足首とすねが少し見えるスカートにはペチコートがどっさり入っている。形は釣り鐘型ではなく、Aライン。デザインはいいが、古すぎて黄ばんでいるし、あちこち破れている。




仁は申し出た。

「凪、それも可愛いけど、新しいドレス、買ってあげようか?」

まだスカートいじってる。



仁は近寄って少女の頭を抱いた。

「凪、顔あげて」

「凪、こっちむいて」

祥子も呼ぶ。



しかし、少女は仁の腰に両腕を回したきり。顔を上げる気配がなく、仁のお腹に頭をぐりぐり押し付けている。仁は少女のほこりまみれの髪をすいた。

「凪、可愛い顔見せて」

いうこと聞かない。




「よし、凪、抱っこだ」

仁が少女を抱き上げるや、彼女は器用に足をあげ、裸足で彼の胸を蹴った。あっというまに宙で一回転。仁の手を振りきって、やはり野生児のような着地をした。




ペチコートでいっぱいのドレスが小気味良くひろがる。どうあっても前髪の奥の素顔を見せてくれない様子。

「凪」




仁が呼ぶと後輩がむっつり立ち上がった。靴を履いた私服の男性。少女の長髪はもうない。普段は表情豊かなのに、急に愛想が無くて可愛くない。




「照れんな」

仁はからかわなかったが、もう少し優しく言えばよかったかな、と思った。後輩の人間離れした引力にしばらく目を奪われてしまったので。




一瞬、空は紺碧のとばりをおろし、八億の月に彩られた。どんどん明るく眩しくなり、仁が瞳を擦ると、もと通りの昼下がり。




凪がそっぽをむいて駆け出した。彼の身体が風に溶けて高潔なビーストになる。振り向きもしないで行ってしまった。




仁と祥子は笑顔を交わした。仁がことわりを入れて、祥子の隣に仲良く座る。中庭では春の花、青娘(アオムスメ)が満開で、その名の通り真っ青に潤んで風にそよいでいる。




「若鷺さん」

「何ですか」

「牧田さんてどういう方ですか?」

「惚れましたか?」

祥子は赤くなって下を向いた。恋の季節。仁は何もかもがいとおしくて微笑んだ。

(終わり)





後書き

この作品は、アメブロ過去記事の転載です。



当時はネットスーパーの犯行かと思って書いてしまいましたが、実際には被害者の食後を狙い、血圧を下げ、永遠に治らない低血糖、低血圧を演出する、集団ストーカーの電磁波攻撃でした。



加害者は、配達物の中で店舗のテープでないテープをわざとお弁当に使ったり、

商品の蓋を半開きにして「一回開けましたよ」のメッセージを繰り出して来たり、

冷蔵食品を常温の袋に入れて腐らせるという、偶然のミスを繰り返すパフォーマンスをしてきましたが


それはスーパーのやった事ではなく、スーパーに紛れ込んだ工作員の犯行でした。




配達員のハラスメントは実話です。詳しくは「東芹が谷デジタルストーム」をご参照ください。



被害者に統合失調発言をさせるための、攻撃に気づかせる工作です。被害者が、スーパーの繰り返す偶然にキレたら、被害妄想患者の一丁あがり。



こちらの作品では、ネットスーパーが悪役になっていますが、フィクションとしてお読みください。




それと、“市販の血圧計は低い値が出ない”と書いてしまいましたが、実際は「食後だけ、これ以上下がらないくらい低い値」が出ていました。記録にも残っています。


作者は普段も当時も、活動してる時(上が)110〜130くらいの値なのですが、当時、食後だけは(上が)90代という、睡眠時の値を出し続けていました。


ただ、私には当時、血圧の知識がなく、しかも食後しか計測しないという、致命的なミスを犯してしまっていたのです。



繰り返し出る低い値が普通で、この血圧計は安物で医療用ではなく、普通の数値しか出ないのだ、と解釈してしまっていたのです。




この作品は「警察と集団ストーカーは被害者をいじめ殺す」と書いて、そういう設定にしたのか、忘れてしまいましたが、


ブルーフェニックスの舞台で悪役をやっているのは、国家権力を汚染する“友の会”です。



お読みいただき、ありがとうございました。

作者用メモ

※読者様用のメモではありません。アメブロで記事さがすのに、便利なので残しておきます。





配達員のハラスメント記録。


vol.38「一族」

vol.39「続・一族」




結果として証拠にならなかったけど、血圧計記録の入った総括記事。


vol.110「点と線」





私の記事の紹介です。メッセージボードとほぼ同じです。内容の振れ幅が大きいので、ご興味を持たれた方はこちらをご覧ください。


vol.145「こんなブログです②」