春の魔法

 私はローズ。

 ピチピチの18歳。

 女王様なの。

 国は一年中春。

 この国の王族は代々春を操る魔法が使えるの。

 国はいつもおいしいものであふれてる。




 その上、私には人を裁く才能があるの。

 悪い人間は許さない。

 胴体から首をちょんぎっちゃう。

 臣下も国民も、私にビクビクしちゃって頭にくる。

 腹の立つ奴の首は魔法でちょんぎっちゃうのが一番いいの。




 神様達は私がいい子だって知ってるから、いつもほめてくれる。

 『特にかわいく産まれたね』っていっぱい言ってくれる。

 それに王族はね、実は神様の遠縁なの。だから春を操れるんだ。




 私が国を潤して、おいしい作物がとれるようにしてあげてるのに、国民は泣いてばっか。

 自分の幸福と感謝がわからない奴は、首をちょんぎっちゃうのが一番いいね。




 ある時、いやにきれいな男が現れた。

 私より1コか2コ年上。

 白衣を着て、蛇の絡んだ杖を持っている。





 医者なんだそうだ。

 名はウィスタリア。

 もーちょっとしゃきっとしてれば100点なんだけど、普段はボサっとしていた。




 でも私が臣下の首ちょんぎったらウィスタリアの奴、杖をかざして、とれた首をもう一度胴体とつなげてしまったの。

 生き返らせてもらった臣下の家族は、泣いてウィスタリアにありがとうって言った。

 ウィスタリアは死人まで生き返らせてしまう、すご腕の医者だった。




 私は彼がみんなにちやほやされるのにムシャクシャして、翌日から臣下の首を手当たり次第にちょんぎった。

 でも、ウィスタリアの奴、その度にふらりと城内に現れて、みんな首をつなげて生き返らせてしまったの。




 そして私をまっすぐ見て、「殺しちゃだめだよ」って言った。

 彼、いつもボサっとしてるのに、患者と死体と私を見る時だけは真面目な顔をする。




 私は本当に頭にきちゃってバンバン首をちょんぎっった。

 彼は「だめだよ」と言いながら、せっせと首をつなげた。

 私はどんどん腹が立って、朝から晩まで彼のことを考えるようになった。

 あんな奴、初めてだ。みんなビクビクして私に本心を言えないのが普通だったのに。





 私は彼と競争しまくった。

 彼はのほほんと応戦し続けた。

 これじゃ私がちらかす人で、あいつがお片付け班みたいじゃないか。

 なんかどんどん腹が立つ。




 その内、神々も彼のことをよく思わなくなった。

 人間を生き返らせられるのは神々だけなのに、あーいう男は許しておけないって。

 そーだそーだ。

 私は人を殺していいけど、あいつは生き返らせちゃいけないんだ。

 神様たち、あいつにはっきり叱ってやって。




 そう思ってたら、神々は本当にはっきりした。

 ある日ウィスタリアは死体の前で杖をかざすと、ころりと死んでしまったの。

 神々に疎まれ殺されてしまった。




 私はびっくりして彼を見つめた。

 もう動かない。

 しゃべらない。

 本心を言ってくれない。

 本当にびっくりした。

 びっくりしたらナミダが出てきた。




 気がついたら私は立ったままスカートを握って、ごうごう泣いていた。

 又一人ぼっちになってしまった。

 彼のいない国なんて大嫌い。

 春なんて永久に来なくていいよ。




 1時間もしない内に国中の川と畑が枯れ出した。

 2時間で国民は干上がった。

 あと1時間でみんな死ぬ。




 神々が城までやってきて、いっせいに私をなだめ始めた。

 私のことを『かわいこちゃん』と呼び続けた。

 それでも私は大声で泣き続けた。

 あんたらみんな大嫌いだ。




 神々は頭を寄せ合って問答した後、城を去って行った。

 そしたら、死んだはずのウィスタリアがピクリと動いたんだ。

 そのあと、むっくり起き上がった。

 あたりをキョロキョロし、次に、泣いてる私の口から出る爆音に目を白黒した。

 彼は立ち上がった。私に向かって本心でたずねた。




 「どうして泣いてるの」

 「あんたが死んだから泣いてるんだ」

 「ごめんね。もう死なないよ」




 ぬおおお面白くない!

 そんな人間いるわけないじゃないか。

 “もうスカートめくりません”みたいな謝り方しやがって。

 私は彼の調子っぱずれな物言いにブチキレて、もっと大声で泣いてやった。

 あんたなんか大嫌いだ。




 そしたら彼が私のほっぺに突然キスをした。

 私は静かになってしまった。

 (終わり)