シスラン

 夢は泡のようで

 いつも泡のようで



 奴隷のシスランは  引く手あまたあり

 誰も誰も金はたき  貴族だけが競り勝った

 彼女についた  新しい主《あるじ》



 昼も夜も寵愛しては  主は夢を見る

 何で何で喜ばそう  この娘《むすめ》を



 彼女に宝贈る  返ってくるはず

 彼女の愛がきっと  そう信じた

 彼女に人を贈る  「使っていいよ」と

 彼女に家を贈る  「幸せかい」




 貢ぎながら求め

 見返りを求め



 奴隷のシスランに  主はうかれて

 土地も土地もみなあげた  「もっと金が要りようかい」

 妻子も売った  一人になった



 奴隷娘 語らないのに  彼女に見られると

 “足りてない”と瞳がそう  言ってる気がする



 貢ぎ続けてついに  身まで持ち崩す

 彼が最後に気づく  傍らで

 贈り物の下敷き  埋もれた娘が

 贈り物かきよけて  立つところ




 あの目をつぶせたら

 仇《かたき》がとれるはず

 奴隷のシスランを  手にかけるやいなや

 主、主、目をむいた  いつか売りさばいた妻が

 今、帰還し  彼を刺してた



 女は女は次にこう言う  「あんたの目は見たくない」

 すぐに娘、売りに出した「さっさとお行き」



 荷馬車が娘運ぶ  日没のあとに

 荷馬車に襲撃あり  誰か来た

 「君を助けに来たよ」  マスクとる男

 まっすぐに見つめてくる  月下の雁




 夢は泡のようで

 いつも泡のようで



 奴隷のシスランに  ありがちな話

 彼女、床に組み敷いて  なたをふりかぶる男

 ひと月あとの  男の姿



 義賊、正義、この世にあふれ  彼女が見つめると

 義賊、正義、あまり虚ろ  あまりに脆い



 「どうしてどうして裏切る」  彼が責め立てる

 彼女の手からむしる  花一輪

 誰に贈られたのか  娘は答えず

 憎悪と嫉妬で義賊は  壊れてく



 夢は泡のようで

 いつも泡のようで



 奴隷のシスランに  愛も殺意もない

 なたをなたをふる男は  後ろの仲間に刺され

 彼女だけ見て  絶命をした



 「無事で無事で何よりだった」  新しい救世主

 彼女の手にその手を添え  安堵してるよう



 悪魔に引きずられて  娘は死なない

 人の手渡り続け  バザールへ

 娘のその瞳に  誰もが恋した

 “あの目はオレをきっと  呼んでいる”



 夢は泡のようで

 いつも泡のようで



 奴隷のシスランは  引く手あまたあり

 今日も今日も金はたき  競り勝った人物が出る

 若い青年  彼女を買った



 「金は金は今底つきた」  若者はそう笑う

 「君に君に狂いそうだが  あいにくだったね



 贈り物の代わりに  野の花をあげる

 贈れる物は花と  安全だよ

 自由をあげたいけど  どこでもおんなじ

 君は引っ張りだこだろ。  ここにいて」



 日暮れ時のバザール 百合が今開く

 空を飛ぶ絨毯の  たたき売り

 冥界の果実、柘榴  老婆がさし出す

 真っ黒な歯列で笑い  立ち去った



 朝の朝のバザール 百合が揺れている

 七つの海について  語る者

 竜が火を噴くくだりで  老婆が寝てしまう

 はじまりのドラムの音  渡り鳥


うんちく

 奴隷娘、シスランの目を見ると、どんな主も恋に狂ってしまいます。彼女のたどる数奇な運命。


 ーーいると周囲が不幸になる女性がテーマのお話しでした。ラストの男性はいい人で、恋仲になります。



 CLAMP先生方も素晴らしい作品を描かれますが、そちらではなく、綾波レイの影響を受けています。エヴァも偉大な作品です。