朱雀とカルロス

1

僕は睡蓮、縁結びの神。縁切りの朱雀と兄弟なんだ。朱雀は悪者じゃないよ。悪縁を断ち切る良い神なんだ。僕たち神だから何百歳にもなるんだけど、見た目も精神年齢も若い成人男子だよ。





朱雀はある時、若きアップルパイ国王、カルロスの相談を受けた。

「妹のマレーネが度重なる悪縁で苦しんでいるのだ。そなたの力で助けてやってくれないか」




彼女は憑依体質で、一回や二回の縁切りでは悪縁から逃げられなかった。朱雀は三年間、彼女につきっきりで悪縁と死闘を繰り広げた。





三年後、彼女は生まれて初めて良縁に恵まれ、優しい彼と結婚することになった。彼女は朱雀を恩人と呼んで、兄弟の僕と一緒に結婚式に招待してくれた。





僕ら兄弟は現代の髪形で和服、アップルパイ王族の伝統服はドレスとちょーちんブルマーの世界。季節は春。教会は春の花と“ありがとう”“大好き”、おめでたい言葉であふれていた。





しかし朱雀は新郎新婦が誓いを立てる寸前、二人の縁をチョキンと切ってしまった。カルロスは面食らったし、朱雀本人も事態を説明出来なかったようだ。




しかしカルロスにとって朱雀は恩人。カルロスは怒らないでたずねた。

「どうして縁を切ってしまったのだ?」

朱雀は黙って式場から出て行こうとした。カルロスはその場にあった私物らしいバズーカーで朱雀の頭を吹っ飛ばした。




もちろん、朱雀は神だから死なない。バズーカの発射口が式場出口を向いていたため、天井の見晴らしが良くなっただけで、死人は出なかった。




カルロスは攻撃してから悪意のない質問をした。

「どうして縁を切ってしまったのだ?」

朱雀は後頭部にタンコブを作って自分のお城に帰って行ってしまった。

(続く)




2

カルロスは笛をピッピッと吹いて、朱雀の領地に進軍し、ダイナマイトで朱雀の城を吹っ飛ばした。僕は地上を離れて上空から展開を見守る事にした。




朱雀は廃墟と化した城の跡地にむっつり座っていた。神だから死なない。カルロスは攻撃してから悪意のない質問をした。

「どうして縁を切ってしまったのだ?」





朱雀はそれを無視して、その場を立ち去ろうとした。カルロスの率いた兵隊達が合唱を始めた。

「ゴーモンしましょう!」

「あんな奴、ゴーモンだ!」

「王様を無視した! 即ゴーモンだ!」

カルロスは兵隊達をいさめた。

「待て、彼にも理由というものがあるのだ。この世を善と悪で分けてはならん」




朱雀は直後にカルロス達の仕掛けたトラップにかかってひっくりこけた。バケツの水を頭からかぶり、落とし穴の下で待っていた無数の竹槍で串刺しになった。神だから生きていた。相変わらず芸のないしかめっ面してる。




カルロスは言った。

「何か理由があるのだ。この世を善と悪で分けてはならん」

朱雀は最初のトラップを無効化したが、次のトラップにハマって逆さ釣りになった。カルロスは濡れたモップで逆さの朱雀をゴシゴシ洗った。

「どうして縁を切ってしまったのだ?」




朱雀はカルロスを無視して全トラップを片付け、無言で歩き出す。カルロスは拳銃でまたや朱雀の頭を吹っ飛ばした。

「何か理由があるのだ。聞かねばならぬ」

(続く)



3

朱雀はタンコブを押さえて走り出した。カルロスはバズーカーを担いで追いかける。

「どうして縁を切ってしまったのだ?」




カルロスの砲弾が三回朱雀にヒットした。朱雀は四つ目のタンコブを作ってむっつり逃げ続ける。カルロスは攻撃しながら悪意のない質問を繰り出し続けている。どっちも折れない大石頭。





僕は地上に降りてカルロスの領地に移動した。マレーネ姫を見つけてたずねた。

「三年間守ってくれた朱雀のこと、どう思っていますか」




彼女はプリプリ怒っていた。

「あんな女心のわからない石頭はもう知りません。私は私で幸せになります」

僕は縁結びの神だけど、新郎新婦の切れた縁は結ばないことにした。

「マレーネ姫、お話があります」




その後、僕が朱雀の領地を見に行くと、彼が頭に八つ目のタンコブを作って、それでも口を割らないでカルロスに追い回されていた。これはこれでゴールデンコンビ。




一年後、朱雀はマレーネ姫と結婚した。多分カルロスで苦労すると思う。

(次はエピローグです)



エピローグ

朱雀はカルロスの破壊した城をすぐ再建し、マレーネと新婚生活をはじめた。僕や彼は和服だけど、彼女はドレスのまま華を添えているらしい。




朱雀はたまに夫婦で彼女の実家に顔を出した。僕は好奇心で後から様子を見に行ったことがある。





お昼時で、最初にカルロスが迎えてくれた。

「ようこそ、睡蓮。今ちょうど美味しい黒毛和牛が焼けたのだ。一緒に食べて行ってくれ」

「ありがとう、カルロス」

「朱雀も呼ばなければ。彼は多分客室にいる」




僕はカルロスについて行った。カルロスは客室を訪れたが、朱雀は不在だった。

「わかった、中庭だ」




カルロスは言ったがそこにもいなかった。

「わかった、厨房につまみ食いに行ったのだ。お腹がすいて我慢出来なかったのだな」

そこにもいなかった。



カルロスが首を傾げた時、朱雀は厨房外から花を持ったマレーネと一緒に屋内に入って来た。外には小規模な庭が見える。




「おお、いたいた朱雀」カルロスはやおら拳銃を出して嬉しそうに朱雀の頭を吹っ飛ばした。「黒毛和牛が焼けたのだ。一緒に食べよう」




死なないからいいってもんじゃない。妹と他の使用人に当てない自信があるからいいってもんでもない。案の定、朱雀は頭にタンコブを作って口を尖らせた。彼が片手の指をぱちんと鳴らした。




カルロスの頭にブリキのたらい、次にブリキのテディベアが降ってきて直撃した。続いて朱雀の横に立っていたマレーネの上には黒毛和牛。




一瞬厨房が静まりかえる。彼女は和牛の下敷きになってしばらくうつぶせにぴくぴくしていた。当然花なんかどっかに行ってる。




和牛飼い慣らされてて、すごい可愛い。多分メス。いやそんなことより、朱雀が右に左にオロオロしてる。マレーネが巻き込まれたのは想定外の事態だったらしい。いーからナンかしゃべれ。




彼女は和牛をどけて、たいぎそうに立ち上がった。朱雀を睨む。彼はさーっと青くなった。彼がじりっ、じりっと後ずさると、彼女がつかつかと詰め寄る。




彼はきびすをかえし、そそくさと厨房を出て廊下を歩きはじめた。僕と彼女が後を追う。彼がダッシュ。彼女もダッシュ。




朱雀は窓に面した廊下にさしかかり、飾ってあった切り花に手を触れた。花は花瓶を割ってたちまち床に根をはり、ひとりでに開いた窓から頭を出して太陽を求めてぐんぐん育った。




彼がはしごになった蔓草の上に飛び乗って、城の五階を脱出した。彼女が負けじとはしごをわたる。彼は振り返って肝を冷やしたようだ。人間だと危ない。




彼は彼女の所までとって返し、どさくさに紛れて彼女をお姫様だっこ。止まらないでマラソンを始めた。マレーネはまんざらでもなさそうだけど、ここでにやけまいとむっつりを貫き通している。




蔓草のはしごは自重で落ちそうになると、地上から柱になる花や木が伸びてきて互いに支え合った。太陽はきらきらと眩しく、青い空はぬけるよう。朱雀は伸び続けるはしごの上で延々とマラソン。止まったら彼女に弁明しないといけないと思っているみたいだ。




はしごの終わりで花が群生している。彼はその中にぴょんと飛び込んだ。花と蔓草がいいあんばいに彼らを包んで愛の巣を造った。朱雀、ごまかすつもり満々のようだが、多分そうは問屋が下ろしてくれないよ。

(終わり)




後書き

エピローグは懲りすぎて第二エピソード化してしまいました。超短編は楽でいいです。朱雀、最後まで台詞もらえませんでした。私は彼みたいのも好きです。



カルロスは愛すべきバカに書いたつもりですが、なんかエピローグで危ない人になってしまいました。やってる事が神への冒涜とおっしゃる方もいるかもしれませんが、私はそんな悪い人には思えません。



私は神、天使、悪魔書きますが、珍しがる人間は書いても、驚く人間はあまり書いていません。超常の存在を、近所から来た異国人とか、会えたらラッキーの人気アイドルとして扱っています。



お読みくださった方々にありがとうごさいました。