ネガティバーが行く

僕は児童虐待に遭いながら育った。学校でも教師主犯の陰湿ないじめに遭い、親に無理強いされた習い事先でも、服をひっぺ返して全裸にされるようないじめに遭っていた。



僕の人生は暗闇そのもの。中学二年にあがる頃には、リストカットが日課になっていた。



教室でいつものいじめに遭ってる時だった。

「待ちなさい、あなた達、恥ずかしいと思わないの?」

見知らぬ女の子が僕をかばった。

「へえ、可愛い顔してんじゃん」

彼女に絡んだ加害者たちは言いかけて、一瞬で吹っ飛んだ。合気道だ。



男どもをのした彼女は、倒れた僕を起こした。僕は尋ねた。

「君、どこのクラスの子?制服も見ない形だし」

彼女は答えた。

「隣のクラスの転校生だよ。制服は注文したばかりだから、これは前の学校の。大丈夫?」




僕は惨めで泣いた。

「死にたい」

「どうして」

「やられてばかりだから」

彼女は優しく言った。

「加害者、もういないよ」

「次も次も加害者が現れるんだ。みんなお前が悪いって言う」

「あなたは悪くない」

「僕が悪いんだ」

「どうして」

「ちゃんとしてないから。学力がちゃんとしてない、顔がちゃんとしてない、体型がちゃんとしてない」

「落ち着いて」



彼女は僕をかばうように立たせたけれど、僕は止まれなかった。自分の顔をかきむしる。

「親がちゃんとしてない、いつかあんな親になる。子供を虐待して、女の子だったら『うへへ、可愛い顔してるじゃないか』『やめてお父さん、何をするの』『うへへへ、いいから脱げ』とか言う親になって、世間の鼻つまみで、どこにも居られなくて、家で娘に権力振るうしかなくて、よそでは『あの人臭いのよ』とか言われて、最後に痴漢の現行犯で御用にされて、僕は、僕は、僕はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「落ち着きなさい!」

僕は気がついたら飛んでいた。彼女の合気道で空を飛んだ。そのまま受け身が取れず、べちゃっと落下する。



彼女は言った。

「完璧だったら攻撃されなかったわけじゃないでしょう。自分を許しなよ。ありのままでいいの!」

「うう……何だか知らないがその通りだ。僕の負けだよ。ありのままでいいんだね……」

「わかったらメロンパン買って来る」

「はい」

以降、僕はありのままの自分を受け入れ、彼女のパシリになる事で新たな快感に目覚めた。以来リストカットはやっていない。暗闇にも、光がさす時があるんだ。


(終わり)