君崎真琴は大学卒業後、集団ストーカー被害に遭い、家族と精神科有田の丘病院側の自白強要で統合失調を認めさせられた。

 今は薬を撃たれ、成浜市有田区丸ヶ峰に在住。

 有田の丘病院に通院しながらブログで被害を告発している。



 真琴の退院後、精神障碍者が突然就労するのは医師がすすめない。

 彼女は生活保護を受給しながら、作業所に通っていた。

 そこで加害者から猛烈な攻撃に遭う。

 



 それでいながら、担当医の工作で障害等級はどんどん下がる。

 彼女は金銭的に窮していたが、集団ストーカーに社会復帰の道を阻まれ、生活保護から抜け出せなくなっていた。




 雨風塔吉郎はブルーフェニックス第三部隊隊長。

 極端に身体が大きい事には功罪があるな、とちょっと気にしている。

 コンピュータルームでパソコンの一機がポーンという音を鳴らした。

 若い女性隊員が反応して彼に言った。

 「SOSエンジンに新規通知です」

 「どこだ」

 「成浜市、有田区」

 「わかった。全員配置につけ」

 ブルーフェニックスは国家権力に対抗できる組織である。






 真琴の住む丸ヶ峰は薬局が競合していて便利だったが、彼女は使う薬局は主にチェーン店の米樹薬局に絞っていた。

 真琴迫害は町ぐるみなのでどこの薬局も同じだが、ブログで攻撃の記録を残すなら、相手は一つの薬局に絞った方がいい。

 集中的に米樹薬局の攻撃を記録すれば、米樹側は責任の分散ができなくて不利になるからだ。




 家から出渋っていたら食材を切らしてしまう。

 真琴はしばらくあるものでやりくりしていたが、とうとうタマゴが食べたくていてもたってもいられなくなった。

 木枯らしの吹く11月早朝、買い出しに飛び出る。




 米樹薬局前を通りかかった時、青い制服の集団が薬局を囲んでいるのが見えた。

 小悪魔的な容姿の代表青年が片手をあげて、加えた笛をピーっと鳴らすと、メンバーが小型器のレバーを落として入り口をダイナマイト爆破。




 彼女が面食らっていると代表の彼が、難を逃れてホコリまみれで出てきた薬剤師女性に胸倉をつかまれている。

 「ダイナマイトは偶然とか手違いじゃないでしょう!!」

 「偶然なんです! 偶然なんです!」

 かぶりをふって必死に言い逃れる代表青年。




 その後薬局は天井と表玄関がなくなってしまったが、内部は機能するとして、夜間工事を続けながら、営業することになったようだった。


どうしていつも岡田なのか

 年末を迎えた。

 真琴は町ぐるみのインフルエンザサンドイッチ攻撃を受け、いくら薬を飲んでも風邪が治らなくなってしまった。

 慢性的に服薬しているので、薬の効き方が鈍くなる。




 一時期、身体がビタミンCを求め、ちょっと前まで冬ミカンが恋しくてたまらなかったのだが、彼女はそれも買わなくなった。

 食欲が低下している。




 スーパーは年末食材であふれた。

 広告や装飾品の色彩は、対照色メインのハロウィンより大人しくなったが、やっぱり男前なお祭りカラー。

 弱っている真琴には行く先行く先騒々しいだけで、何がそんなにめでたいのかわからなかった。




 彼女は今日も土井耳鼻咽喉科にかかった。

 午前受診の後、昼近くに処方箋を受け取って、下階の米樹薬局に向かう。




 米樹薬局では薬剤師は白衣。

 会計の仕事もする。

 他の雑用担当は着衣の色が変わり、形だけ白衣と同じとなる。






 受付会計担当、美曽根霞は三十代前半、すらりと背の高い眼鏡美人だった。

 眼鏡美人というと、委員長のような固いイメージの女性を連想する男性がいるが、そうではない。

 フェイスラインに丸みがあり、柔和な顔立ち、目元、軽やかなボブカットが甘ったるい、すっぴん天使のようだった。

 しかし、真琴は美曽根に処方箋を渡せたことがない。




 真琴が米樹薬局を訪れると、本来の受付会計係の美曽根を、必ず待合室患者と薬局職員にまぎれた工作員が囲んで質問攻めにする。

 あるいは大量の仕事を回す。

 真琴の処方箋を受け取るのは、いつも色付き着衣の岡田だった。




 偶然が重なる、というより偶然しか起こらない。

 真琴が岡田の監視待ち伏せと判断しておかしいことなんか何もなかった。

 真琴は岡田に問いただした。




 「どうしていつも岡田さんなんですか」

 「ちゃんと美曽根さんに渡します」

 「美曽根さんに直接渡します」

 「彼女今、手が空かないのです」




 真琴はあきらめて岡田に処方箋を渡した。

 待合席に座る。

 岡田は真琴の見ているところで受け取った処方箋を放り出した。





 真琴は薬局内の事情に精通していない。

 処方箋を受け取った岡田が美曽根に回すため、本来どこに置くのか知らない。

 しかしパソコンの横に単独で放り出すのはおかしすぎる。




 岡田は美曽根に依存しなくても、局内で処方箋を入れる籠が決まっているはず。

 真琴の処方箋放り出しなんかあっていいわけがないのだ。

 しかし真琴が岡田に向かって、処方箋をどこそこの籠に入れたか確認するすべはない。





 真琴は岡田に訊ねに行った。

 「私の処方箋、美曽根さんに渡してくれましたか」

 「あ、渡しました!」




 岡田が笑顔で答えた。

 裸の処方箋は放り出しっぱなしなのを真琴に見せつける。

 真琴はそれが私のだとは主張できない。

    遠すぎて処方箋の固有名詞まで読めないからだ。

 真琴は力なく外出した。局内にいるとインフルエンザサンドイッチ攻撃の餌食になるからだ。





 待ち時間を外で過ごして、陰気な気持ちで薬局に戻った。

 「私の薬はできていますか」

 「すみません、薬局が混んでて、処方が遅れてるんです。後20分です」





 岡田が対応して案の定の返事。

 「処方箋を奥に送ったの、今でしょう。正直に謝ってください」

 「ちゃんとさっき送りました」

 真琴は処方箋を毎回受付担当の美曽根に渡せず、毎回処方箋の連絡不備が起こる。

 岡田の攻撃と思って一体何が悪いのか。




 米樹薬局で会計でも受付でもない岡田里香はターゲットの専属担当を続けた。

 故意に必ず処方箋の連絡不備を起こし、決して謝らない。

 待ち伏せしていること、監視していること、攻撃していることをターゲットにほのめかし続ける。

 ターゲットが文句をつければ偶然だと説明して、相手を神経質な人に演出する。




 ターゲットにキレさせるように、キレさせるように工作するが統合失調工作だ。

 ターゲットが本当にキレたら妄想患者の一丁あがり。

 キレて被害者が犯罪者になるなら、もうあとは盗撮映像を売りたい放題。

 里香はいじめをしていれば細いウエストと美肌を保てた。




 里香が翌朝出勤に出ると、通り道で突然生卵を投げつけられた。

 犯人を捜したが逃げた後らしい。

 なんて幼稚なことをするのだ。

 そして悔しかった。




 辻本司は四十代、精神科有田の丘病院勤務、君崎真琴の主治医だった。

 肌荒れの跡が顔に残ってしまい、若いころは気にしたが、今は青春だったと思っている。

 患者の真琴は受診する度、彼に訴えていた。





 「私は病気ではありません。集団ストーカーに監視されているのです」

 「あなたはそんな国家的な要人なのですか」

 辻本はターゲットが傷つくのを熟知した上で、また一般の精神科医は患者を安心させる目的で、同じ発言をする。

 辻本は真琴が醜く変貌する様を仲間と一緒に興味深く静観していた。




 里香と司は友の会工作員。

 友の会は統合失調に仕立てたターゲットの拷問データを日本と諸外国の科学者、心理学者に、盗撮データを変質者に売りさばいて財源にしている。

 実際ターゲットが国家の要人である必要はないのだ。




 辻本は翌朝出勤に出ると、通り道で生卵を投げつけられた。

 犯人を捜したが逃げた後らしい。

 なんて子供じみているのか。

 そして悔しい。







キレたらいけない

 一月第四週、真琴はまた薬局を利用することになる。

 対応は岡田。

 「どうしていつも岡田さんなんですか」

 「ちゃんと美曽根さんに渡します」

 「美曽根さんに直接渡します」

 「彼女今、手が空かないのです」





 真琴はあきらめて岡田に処方箋を渡した。

 待合室に座る。

 岡田は真琴の見ているところで受け取った処方箋を放り出した。

 真琴はしばらく静観して岡田に訊ねに行った。




 「私の処方箋、美曽根さんに渡してくれましたか」

 「あ、渡しました!」




 岡田が笑顔で答えた。

 裸の処方箋は放り出しっぱなしなのを、真琴に見せつける。

 真琴は待ち時間を薬局の外で過ごして戻った。

 対応は案の定、岡田。




 「すみません、薬局が混んでて、処方が遅れてるんです。後20分です」

 嘘だ。

 処方箋自体、奥に回したのは今だ。

 しかし真琴がキレたら精神科保護室に叩き込まれる。

 真琴は黙って他の患者の何倍も待った。




 翌、一月第五週、真琴はまた米樹薬局を利用した。

 対応は必ず岡田。

 「どうしていつも岡田さんなんですか」

 「ちゃんと美曽根さんに渡します」





 真琴は疲れていた。

 外出する元気もなく、薬局で待った。

 案の定、呼ばれる気配なし。

 真琴より後から来た患者が窓口に呼ばれ始めた。真琴は美曽根に訊ねた。

 「私の薬は、後何分ですか」

 「えっ?」





 真琴から処方箋を受け取った記憶のない美曽根はキョロキョロし、死角にあった真琴の処方箋を見つけ、慌てて籠に入れた。




 彼女は工作員ではなかったが善人でもなかった。

 ごく普通の一般人である。

 見落としを見落としましたとは真琴に告げず、こう言った。

 「あと20分です!」




 美曽根は真琴を、今処方箋を出した患者と同様に扱うつもりらしい。真琴は言った。

 「私、40分待ってるんですが」

 「ええ?」

 



 美曽根は動揺したが、責任の所在を調べるのを怠った。

 処方箋を前列に食い込ませることもしない。

 その時、美曽根は自分の間違いを認めて謝らなければならないからだ。

 彼女は申し訳なさそうに真琴に頭を下げた。




「すみません、今混んでて、処方が遅くなる場合があるんですよ」

 美曽根が謝ったのは自分のミスでなく、起こってもいない調剤の遅れだった。

 美曽根は工作員ではないが善人ではなかった。普通の人だった。




 翌、二月第一週、真琴はまた米樹薬局を利用した。処方箋受け取りは岡田。

 真琴が外出から戻ると、その対応もやはり岡田だった。

 「すみません、薬局が混んでて、処方が遅れてるんです。後20分です」




 真琴はもう岡田を相手にしなかった。美曽根が手が空いたのを見計らって、言った。

 「処方箋はあと何分ですか」

 「後20分です!」




 美曽根は真琴が待っていたことを知らないので、訪れたばかりの人に言うのと同じことを言った。

 とびきりの笑顔だった。

 「私、もう20分待ってるんですが」

 「ええ?!」




 美曽根は動揺するのだが、手違いを手違いと言わず、責任の所在も、自分が処方箋を見落とした事実も調べず済ませようとした。

 「すみません、今混んでて、遅れる人っているんです」

 美曽根は相手が怖くなければミスを調べない、普通の人だった。




 2月第二週、ある日の夕方、真琴はまた米樹薬局を利用した。

 処方箋受け取りは岡田。

 真琴が待ち時間を薬局外で過ごし戻ると、その対応も案の定、岡田。




 「すみません、薬局が混んでて、処方が遅れてるんです。後20分です」

 「処方箋を奥に送ったの、今でしょう。正直に謝ってください」

 「ちゃんとさっき送りました」

 「嘘だ! 待たせる工作してる」

 「違います」




 「どうして毎回処方箋を受け取るのがプロの美曽根さんじゃなくて岡田さんなんですか」

 「偶然です! 美曽根さんにだって代行がいなければ仕事は回りません」

 「助けて、私、攻撃されてる!!」




 真琴は薬局内で騒いだ。

 数名の男性に落ち着くように説得され、それでも騒いでいたら、取り押さえられた。



 

 同時に局内にオレンジのレスキュー隊が団子になって駆け付けた。

 何故レスキュー隊なのかよくわからないが真琴は叫んだ。

 「助けて、攻撃されてるの。私、統合失調じゃない」

 真琴はレスキュー隊に保護され、有田の丘病院保護室に叩きこまれた。





 退院後の3月第一週。

 真琴は米樹薬局を利用した。

 対応は岡田。

 「どうしていつも岡田さんなんですか」

 「ちゃんと美曽根さんに渡します」

 「美曽根さんに直接渡します」

 「彼女今、手が空かないのです」

 「そこに裸で置いてるけど、処方箋を置く籠がどこかにあるでしょう」

 「美曽根さんが籠に入れるんです」

 「じゃあ渡してください」

 「今、彼女手が空きませんから。後で渡します」




 真琴は外出しないで、岡田を監視することにした。

 しかし岡田は、放置した処方箋を美曽根に渡す気配も見せなかった。

 真琴は再度交渉した。

 「いつ渡してくれるんですか」

 「もう渡しました!」

 




 岡田は放りっぱなしの裸の処方箋を真琴に見せつけ、笑顔で答えた。

 攻撃を知らせる工作だ。

 真琴は言った。

 「そこに放り出している処方箋、見せてください」

 「あなたのではありません」

 「では誰のですか」

 「個人情報ですから」

 「今、録音してますよ」





 真琴のICレコーダーは本当に回っていた。岡田は不敵に笑ってこう言った。

 「そんなに知りたいのだったら見せてあげますよ」

 岡田は真琴に放置していた処方箋を渡した。 

 真琴のものではなかった。

 




 真琴の背中で、待合室の工作員達が耳打ちを始める。

 「統合失調なんだって」

 「被害妄想すごいね」

 「攻撃されてるって思ってるんだよ」




 岡田里香は内心、真琴をあざ笑っていた。

 処方箋放置の工作は里香が考えたものではない。

 プロの心理学者が友の会のために考えたものだ。




 最初からターゲットが処方箋の個人名を確認したくなる攻撃をしているのだ。

 実際に確認したら、罠が待ってるに決まってる。

 一般人は心理学者に勝てない。




 里香は真琴が帰ってゆくのを笑って見送った。

 雨も降りだして傘もなさそうだし、いい気味だ。

 その時、薬局に見ない顔が現れる。スーツ姿の男性で上背と胸板がすごい。




 「どちら様?」

 上司の高田が説明した。

 「米樹の幹部で東京から来た太田さん。壊れた天井の視察だって」

 「ああ、なるほどーーー」

 里香は上を見上げた。天井が吹っ飛んで、間に合わせのカバーをかぶっているのだ。




 太田はいかつい顔でにっこり笑うと、里香に折り畳み傘を差し出した。

 「傘? 何でしょう」

 太田は突然くわっと怖い顔になった。




 真琴は雨が降られて困っていた。しかし近くにコンビニもなく濡れて帰り始めると、誰かが走ってくる。

 里香だった。

 彼女は真琴に折り畳み傘を差しだして泣いていた。

 「私のじゃありません」

 「あげます」

 「どうして」





 「使ってください! わぁぁぁぁぁ!!」

 里香は言うだけ言うと、自分は傘なしで泣き叫びながら薬局に帰っていた。




 「HI、真琴さん!!」

 男声。真琴が降りかえる。

 「面白かったね」

 「何か知ってるんですか」

 「いいえ。でもかわいい子が泣いてると魅力的だ」

 彼は傘を持って笑った。鞭のようにしなやかな細身長身で、妖艶な容姿をしていた。




 「僕はブルーフェニックス隊員、御門凪」

 「御用ですか」

 「あのね、もう少し頑張ってほしいんだ」

 「何を」

 風がどっと吹いて御門は消えてしまう。彼の傘が空を踊っている。






 三月第三週の事だった。

 「岡田さん、4月よりちょっと早いんだけど、彼、新人薬剤師の巴君。今日からよろしくね」

 「わかりました」

 「彼ね、接客と事務経験があるの。オールマイティーに動ける人だから、最初は岡田さんが局内の雰囲気をざっくり教えてあげてちょうだい」

 「はい」

 


 里香は米樹幹部の太田から理不尽にどやされ、ひどい目に遭ったが、何とか立ち直ることができた。

 野良犬にかまれたと思うしかない。

 太田はいないんだから、もう忘れよう。




 上司から新人教育を任された日の正午近く、薬局に君崎真琴が訪れた。

 里香は途端にとびきりの笑顔で真琴を迎えた。

 女性ホルモンが身体を駆け巡るのを感じる。

 自分にはいじめがある。

 いじめさえやっていれば美は保てる。




 里香はひな祭りが過ぎて桜の開花予想が盛んな時期であることを思い出した。

 街では卒業生の袴女子を見かける。

 和装はどうしてあれほど美しいのか。

 色彩と味覚の季節はじわじわと盛り上がりを見せ始めている。

 彼女は巴を改めて眺めた。

 甘いマスク、マリアのような瞳、長身細身の体格もいい。

 ほら、恋の女神が微笑んでるーー。




 里香が真琴の処方箋を美曽根霞の死角に放り出すと、巴が現れ、それを取った。

 「はい、美曽根先輩」

 「あら、ありがとう」

 しかし、里香は一度の失敗なんか気にしなかった。




 その日、美曽根霞は仕事帰りに予報になかった雨に降られた。

 彼女は傘を持っていなくて薬局玄関口で弱っていた。

 その時、巴が現れた。彼女に傘を差しだしてくる。

 「はい」

 「あなたの傘は」

 



 「あります。先日の雨の日に持っていた折り畳み傘がカバンの中に入っていました。僕そっちにしますから」

 霞はほころんだ。

 「ありがとう」

 「それより美曽根先輩にお話があります」

 「なあに」





 米樹薬局に真琴がやってくる。

    里香は真琴を見て笑った。

    真琴は本当は霞に処方箋を渡したいのに、そう言えなくて不快そうな表情をしていた。

    真琴が里香を糾弾したら今度もまたまた保護室の刑だ。

    いい気味だった。





    里香はいつも通り真琴の処方箋を霞の死角に放置した。

    真琴に対しては待ち時間20分と告げたので、真琴は負け犬のように薬局から外出していった。




    里香はいつも通り別の仕事に追われて真琴の処方箋を忘れたことにした。

    処方箋受け取りは元から霞の仕事なのだから、一瞬だけ受け取り代行をやった里香に責任はない。

    もし真琴が局内に残っていたら、もっと怒りをあおることができてゾクゾクするのだが。




    真琴が外出から戻ったら、霞が真琴の指摘で処方箋不備に気が付いて、また20分待たせることになる。

    無能なちゃっかり屋の霞は真琴の処方箋を前列に割り込ませることもしない。

    それはミスを認めたことになるからだ。




    ああ、いじめとは、支配とは何と楽しいのだろう。

    里香は自分の透き通ったフェイスラインを撫でた。

    どんどん肌が若返る。





 その時だった。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としてますよ」

 「ええっ、本当?」




 霞が慌てふためく。

 「そこです」

 「ありがとう、巴くん」

 「ドンマイ、先輩!」

 胸をなでおろす霞に巴は明るく笑った。里香の攻撃は失敗した。




 翌、三月第四週、薬局に真琴が訪れた。

 工作員が回り込んで、受付会計の霞をてんてこ舞いにし、里香は今度も処方箋受け取り代行をやった。

 「美曽根さんに渡してください」

 「わかりました!」

 「何分待ちですか?」

 「30分です」




 真琴は力なく外出していった。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としてますよ」

 美曽根が反応する。

 「あら、大変! 私ったら」




 里香は今度も失敗して目むいた。

 どういうわけかついてない。

 こういじめができないと、肌バランスが悪くなる。




 翌、三月第五週、真琴が薬局を訪れた。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としてますよ」

 「嘘! なんでこんなことに」




 動揺する霞に巴は怪訝な顔で訊ねた。

 「先輩、どうして君崎さんの時だけ、ピンポイントでケアレスミスなさるんですか?」

 霞は言葉に詰まって、ゆっくりと里香を見た。





 「岡田さん、どうして君崎さんの処方箋の時だけ、私に渡してくれないの?」

 里香は弱って手揉みをした。

 「偶然手が空いてなくて」

 「どうして全部君崎さんなの?」

 「私にもさっぱり」





 里香は首をかしげてごまかそうとしたが、霞はきっぱり注意してきた。

 「君崎さんに失礼です。あなたにも責任があるでしょう」

 「すみません」

 霞はやっぱりちゃっかりしていた。

 他人のミスは糾弾できるようだ。




 里香は小さくなった。

 悔しかった。

 友の会員にとって原罪にまみれた薄汚いターゲットのために謝ることほど屈辱なことはない。

 里香はいじめができなければ肌バランスが崩れてしまう。





 里香たちは年度末の仕事に追われていた。

 彼女はきびきびと神経質に働きながら、日に日にストレスをためていた。

 それもこれも真琴攻撃が上手くいかないからだ。

 ストレス発散ができないと仕事上のケアレスミスが多発するが、何より里香の美しい肌が危機を迎えていた。




 巴は若く麗しく、恋の相手に適任だったが、里香に面白くない。

 里香は短気を起こしてあっさり彼に見切りをつけた。

 里香は巴を個室に呼び出した。


花嫁

 「あなた薬剤師で仕事は奥でしょう。私と霞さんの仕事に干渉しないで」

 「どうしてですか」

 「これ以上知ると、逃げられなくなるよ。それでもいいの?」

 「わかりました」

 巴は大人しく奥の薬局に下がり、もう受付には出てこなくなった。




 翌、三月第六週、真琴が薬局を訪れた。

 里香に処方箋を渡して外出。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としてますよ」

 霞が反応する。

 「大変、大変」




 里香は肝を冷やした。

 霞は処方箋を回収するが、肝心の巴は奥の薬局。

 どうして彼の声が受付に届くのか。

 叫んでいるようには聞こえないし、里香は自分の空耳を疑ってしまったので、巴を呼び出すことができなかった。




 翌、四月第二週。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としてますよ」

 「大変、大変」

 里香の耳にまた空耳が届く。

 霞が反応してるから、空耳とは言い切れない。

 しかし、巴は薬局から出てきているわけではないのだ。




 翌、四月第三週。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としてますよ」

 霞が反応する。

 「大変、大変」





 里香は次の瞬間、薬局入り口付近のトイレから巴が出てくるのを見て度肝を抜かれた。

 どこに目が合って、どこから発音しているのか。




 年度初めの忙しさがひと段落したが、里香は職場で不快な体験が続くため、イライラしていた。

 街は新入生や新入社員、新製品、新流行色と春一色なのに、里香の方は我慢のならない下がり調子。

 昨日はゆっくり入浴できなかった。どこかに八つ当たりしたい。





 職場で霞が巴の声に反応していることから、里香は聞こえてくる声を空耳ではないと判断することにした。

 むしゃくしゃしていた。

 里香は薬局の巴を個室に呼び出した。




 「あなた、君崎真琴の何なの」

 巴は生真面目に答えた。

 「特に関係はありません」

 「処方箋の事で美曽根をサポートするのをやめなさい」

 「あなたが美曽根先輩に渡さないからです」

 「私のやることに口出ししないで」

 「どうしてですか」




 「君崎真琴は万引き常習犯なの。町から追い出すように、警察に言われてるの」

 巴は警察と聞いたのに、従順になるそぶりを見せなかった。

 「警察が一般人に私刑の協力を要請するのはおかしいです。それ警察の犯罪ですよ」





 里香には天下の警察を無視する巴が理解できなかった。

 しかし、力は自分の方が上だ。

 彼女には友の会が付いてる。

 「いうことを聞かないと、君崎と同じになるよ」

 「同じって何ですか」

 「あなた危険だよ。知りすぎて無事だった人、いないよ」





 巴は黙っていた。

 里香はたたみこんだ。

 「人生台無しになってもいいの」




 巴はゆっくりと仰のき、白目をむいて後ろにバランスを崩した。

 しかし、物音はしなかった。

 里香は彼が倒れたと思った場所に彼の着ていた白衣がぱさっと落ちるのを見ただけだ。

 巴は消えてしまった。




「どうなってるの」

 里香があたりを見回すと、背後で不審な人物が彼女を見ているのに気が付いた。

 巴ではないようだ。ベールをかぶった黒いドレスの男性。

 女性っぽくなりすぎない、ユニセックスなショートヘア。

 女装には見えない。

 スカートをファッショナブルにはきこなす男性っている。





 ビジュアル系の男性にしてはメイクが手薄に見えるが、新手のビジュアル系で片付けてしまうのが一般的だろう。

 しかし、それだけでは里香の胸の内がざわざわした。

 彼が怪物じみた黒い花嫁に見えるのだ。

 青紫のブーケを持ってすべてを見透かすように笑っている。

 里香は彼の口封じもしなければならなくなった。




 「話があるの」

 すると黒い花嫁の姿が、旧式のTV映像にノイズが入った時のように、水平にざっと歪んだ。

 そして彼もまた忽然といなくなった。





 里香はその後判断に困ったが、煙たいものがいなくなったと自分に言い聞かせ、いつも通りに過ごすことにした。

 ゴールデンウィークに入ったら、すっぱり切り替えよう。

 お風呂で泥パックしよう。

 それより温泉の計画を立てようかーー里香は楽しいことを考えることにした。





 四月第四週、薬局に真琴が訪れる。

 そう来なくちゃ。

 里香にはいじめがある。弱者をじわじわいじめていれば、きれいになれるのだ。

 工作員が霞を囲み、里香は真琴の処方箋を受け取って、真琴の目の前で闇に葬った。

 




  「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としてますよ」

 突如、巴の声がした。

 霞はあわてて反応する。

 「大変、大変」

 真琴の処方箋は回収され、里香の攻撃は失敗した。

 里香はめまいを覚えていた。

 巴はいない。

 消えたのだから。





 その時、里香は、薬局のベンチに黒い花嫁が座っていることに気が付いた。

 今度はブーケの代わりに青紫の扇子を持っている。

 足を組み、むせかえるほど甘ったるい倦怠感と男性的な色香を放出している。

 あんなに目立つ格好をしているのに、今まで気配にも気が付かなかった。




 里香は動揺した。

 これまでの経緯を考えた時、花嫁が里香の工作について、詳しく聞いていたか判断できなかった。

 里香が巴を脅した時、花嫁は全部聞いていたのか? 

 そもそも、本当にあの場所にいたのか? 

 なら友の会で懐柔しないといけない。

 



 しかし、彼が何も知らなかったら? 

 里香は彼にわざわざ自分の犯行を説明することになる。

 里香は混乱して、対処することができなくなった。

 真琴が薬を受け取った後、花嫁もいち患者として薬を受け取って薬局から去って行ってしまった。




 里香は霞に訊ねた。

 「花嫁を知ってますか?」

 「花嫁? ああ、ビジュアル系の男性ね」

 霞は面白そうに笑った。

 「こんな田舎に珍しいですよね。メイクはしてるかどうかもわからないし、それであの着こなしはセンスがいいと思いますよ」





 翌、四月第四週、薬局に真琴が訪れた。

 何か症状に変化があったのだろう。

 今週は二回目だ。




 里香は真琴の目の前で処方箋を放り出した。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としていますよ」

 「大変、大変」

 霞が真琴の処方箋を回収する。




 里香がどこにもいない巴の声に動揺した時、薬局の席には黒い花嫁が座っていた。

 あんなに目立つ格好をしているのに、いつ来たのかどうしてもわからない。

 しかし彼に問いただそうにも、里香の仕事は処方箋受け取りではないから知らなくて当然なのだ。

 調べる権利もない。

 花嫁は明らかに里香を眺めて笑っていた。




 翌、四月第五週、薬局に真琴が訪れた。

 里香に処方箋を渡して外出。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としていますよ」

 「大変、大変」

 霞が真琴の処方箋を回収する。

 里香がどこにもいない巴の声に動揺する時、薬局の席には黒い花嫁が座っている。





破滅

 数週間が経った。

 真琴の薬局来訪、巴の声と花嫁の来訪はいつもセットだった。




 里香は花嫁の出現で生活のバランスを崩し、睡眠不足に陥っていた。

 楽しみにしていたゴールデンウィークは予期せぬキャンセルが続発し、大失敗に終わっている。





 里香は真琴攻撃に敗れ続け、ついにストレスで爆発した。

 花嫁に食って掛かる。

 「私に何の用ですか」

 「あなたに用なんかありませんよ」

    花嫁は驚いていた。

 「監視してるでしょう!」

 「一体どうなさったんですか?」





 里香は彼を指さしてギャラリーに叫んだ。

 「私、この男に監視されてる!!」

 「里香さん、落ち着いて」




 霞が慌てて割って入った。花嫁に頭を下げる。

 「すみません、神田さん、行き届かず失礼しました」

 「私、監視されてる!!」




 里香が発言した時、悪夢のように声が届いた。

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としていますよ」

 里香は頭を抱えた。

 「巴も監視してる!」




 霞は里香を落ち空かせようと冷静につとめる様子。

 「落ち着いて里香さん、巴君は部署が変わったじゃないですか」

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としていますよ」




 またや、巴の声。

 里香は霞に問いただした。

 「あなたには聞こえないの?」

 「何がですか」




 霞にはわけがわからない様子。

 薬局のギャラリーが耳打ちし始めた。

 「統合失調なんだって」

 「被害妄想すごいね」

 「かわいそうにね」




 その時、里香は花嫁が攻撃に気づかせる工作をやっていたことに気が付いた。

 真琴の薬局来訪、巴の声、黒い花嫁は、故意に三つを関連付けた刷り込みだ。

 ボディーブローのような精神攻撃。




 里香が花嫁に監視されていると主張すれば、花嫁側がすべて偶然と主張し、里香の被害妄想に仕立てる戦略だ。

 里香は恐慌して叫んだ。




 「私は統合失調じゃない」

 「美曽根先輩、君崎さんの処方箋、見落としていますよ」

 里香は悲鳴を上げた。

 空耳ではない。

 攻撃だ。





 友の会員は空耳を科学的に再現できるのを知っている。

 統合失調工作として日常的に演出しているからだ。




 集団ストーカー被害者の会でも知られていることだが、彼らの主張を相手にする人間はいない。

 友の会員は守られているはずだった。





 里香は両耳を抑え、薬局を飛び出した。

 直後に車と接触。

 米樹薬局の前の通りは車一台分の幅しかない歩道だ。

 ルール違反する車がたまに乗り入れるくらいだったので、里香に何が起こったのかわからなかった。




 里香はベッドで目が覚めた。

 拘束具でがんじがらめにされていた。

 場所は成浜市大だと医療関係者に聞かされた。

 拘束具があるなら閉鎖病棟。

 車と接触した記憶があったが彼女は無傷だった。




 「どうして拘束されているのですか」

 「あなたを守るためです」

 翌日、主治医が面会にやってきた。知っている男性だった。医師のはずがない。




 「巴」

 「僕、若鷺です」

 「嘘だ」

 「信じてもらえないと悲しいな」

 「私は統合失調じゃない」

 「そうですか。じゃあ、まだまだですね」




 翌日も若鷺はやってきた。

 「私は統合失調じゃない」

 「それじゃまだまだですね」




 翌週も若鷺はやってきた。里香は拘束に疲れてボロボロだった。

 「自分の事、どのくらいわかってる?」

 「統合失調でした」

 「わかればいいんだよ」

 若鷺はさばさばといって部屋を出て行ってしまった。




 その日の晩、里香の個室に黒い花嫁が現れた。
 青紫のブーケを持って笑っている。
 電気スタンドに照らされ、花嫁の影は化け物のように大きく伸びていた。
 怪物が愛しい彼を守っているようだ。



 彼は訊ねた。
 「あんたにとっていじめって何」
 「生き甲斐。いじめてるとお肌がつるつるになるの」
 「アダルトチルドレンだね。おれ解決方法知ってるけど、助けないよ」



 花嫁は冷たくすましかえっていた。
 「本人が悪い人っているの。知らない罪ってあるの」
 里香は悔しかった、今のセリフは真理だ。花嫁が崇高な真理に無関心なのが許せない。



 花嫁は彼女に言った。
 「あんた、価値観の違う人といられないだろ」
 「だって本人が悪い人っているでしょ?」
 「幸福な人ってね、価値観の違う人と仲良くできるから、最高のパートナーを見つけられるんだ。あんた自分と同じいじめ加害者に守ってもらわないと暮らせないんだろうね」



 「だって本人が悪い人っているの。本当なの」
 「あなたの分担は何」
 「だって本人が悪いんでしょ?」
 「あなたの分担は何」
 「だって本人が悪いんでしょ?」
 「分担のない人が被害者の分担考えるの、おかしいなあ」




 里香は泣きたくなった。

 花嫁が考えたくないことを考えさせる。




 否定は怖くない。

 愚か者の否定は里香たちの結束をより強くするものだ。

 こんな時、里香はいつもすぐ仲間の輪に入って面白くない奴をこき下ろした。




 仲間がいれば正義と真理がわかる。

 なのに今、里香は仲間のもとに逃げられず、考えることを 余儀なくされていた。




 「本人が悪いんじゃないか」

 里香は今、自分を疑う危機にさらされ、今までの信仰に必死にしがみついていた。

 一人で考えたことも判断したこともない。これからもしない。




 花嫁はヴェールを取り、腰をかがめて、里香の顔を覗き込んだ。

 彼は妖艶に微笑すると、里香に前置きすることなく、片手で彼女の身体をなで始めた。




 里香は彼の美貌に困惑し、甘い屈辱に自分が怒ってるのか、恋してるのかわからなくなる。

 花嫁は憎かったが、恋は手に入った。




 彼は里香のベッドに乗り上がって来た。

 「若くて美味しそうだね。一口いいかな」




 拘束具でがちがちの女性を男性が襲うのは絵的に残酷なはずだ。

 しかし、彼は非常に愛撫の手際が良く、一口と言いながら里香の首筋に甘くキスしてたちまち燃え上がらせた。

 唇が重なると彼は獣のように情熱的で、里香の子宮が痺れあがる。




 彼は食べるだけ食べてしまうと、「じゃあね」と言ってあっさり部屋を出て行ってしまった。

 里香は恋の熱で溶けてしまった。

 でも用無しにはされたようだ。




エピローグ

 次の瞬間、里香はベッドで飛び起きた。

 自宅だった。

 拘束されていない。

 自由だ。

 彼女は混乱してスマホを取った。両親に電話する。




 「お母さん、私、統合失調じゃない」

 「何言ってるの。当たり前でしょ」




 どこから夢だったかわからない。

 結末はそれなりに美味しかったし、里香は安堵しかけた。




 しかし、自宅前の騒ぎに気が付いて出てみると、突然マスコミにもみくちゃにされた。

 「警察に何を頼まれたのですか?」




 里香は知らないうちに世界的有名人になっていた。

 彼女が巴を脅した映像と音声が、ユーチューブで公開されている。

 なら巴が煙のように消えたのも話題になったかと思ったら、映像の中の彼はしっかりしていた。




 里香はマスコミに追われたが、友の会が守ってくれるし、統合失調の悪夢からも結局逃れたことになる。

 けれど追われる身となったことで、愛したいじめの楽しみを失ってしまった。




 真琴は同時期に行きつけの皮膚科のTVでユーチューブ騒動を知った。

 自宅にはTVを持ってない。

 貧しいからではない。

 TVを楽しいと思わないからだ。

 スマホとブログがあれば少しの時間差で情報は入ってくるので不自由していなかった。




 待合室はそんなに混んではいなかったが、実はTVの方を向いているベンチがない。

 彼女はまばらなギャラリーと一緒に立ち見をしていたのだが、そのままウトウト始めてしまった。




 誰かが彼女の肩に手をかけた。

 長身細身の若い男性のようだ。

 さわやかな青紫のシャツが印象的。




 「大丈夫?」

 「大丈夫」

 真琴はバランスを失った。男性が彼女を支えた。

 「御門さん」

 「うん」

 彼女は暗転する意識の中で、再会の幸福に包まれていた。




 ブルーフェニックス第三部隊、壮年隊長の雨風塔吉郎は大きな体で事務処理に追われていた。

 身体資本の仕事なのに、隊長やってるとデスクワークが攻めてくる。

 七月に入って夏本番、中庭のセミの声を聴きながら、彼はデザートのかき氷をかっ込んでいた。




 彼のデスクに女性隊員が訊ねにくる。

 「美曽根霞はどうしますか」

 「しようのない人だが、協力してくれたからよしとしよう」




 社会で話題になった警察の犯罪を糾弾する者は、のちに黒幕が黙らせる形となった。

 しかし、ユーチューブ映像の公開で岡田里香はダメージを受けた。

 米樹薬局そのものも、世界的に知られるようになり、マスコミが殺到したため、ブルーフェニックスは工作員クレンジングに成功した。




 ブルーフェニックは国家権力に対抗できる組織で、友の会と戦っている。 

 武力を持った実働部隊の他に、報道、医療、芸術部隊などが存在し、福祉部署があること以外、構成は友の会と同じである。

 同じことができなければ勝てないからだ。




 今回の塔吉郎達の仕事も、報道、医療、芸術部隊と合同。君崎真琴援護の際は、御門凪、若鷺仁が役者として目立ったが、演出、舞台装置は裏方なくして成立しない。




 花嫁役をやった御門凪は第三部隊では多才で、シナリオ制作や、演出もするため、芸術部隊にも籍がある。
 性格があまりに子供っぽく、昇格させてやることができないのが塔吉郎の悩みの種だった。



 被害者だった君崎真琴は助かった途端、緊張の糸が切れてしまい、最近では食事もとれずに滾々と眠るようになった。
 そのままでは死んでしまうので、ブルーフェニック医療部隊が三年間のサポートに入った。



 真琴は意識がないわけではない。
 彼女が起きている時に塔吉郎が話を聞いてみたところ、子供の頃ペットシッターに憧れていたらしい。
 塔吉郎が彼女にブルーフェニックスの中のセラピー犬育成係の存在を知らせると、彼女はなりたいと言って喜んでいた。
 医療部隊の次は社会復帰サポートが活躍しそうだ。


(終わり)