お父さんの道

 私のお父さんは頑固一徹、八十年代カミナリオヤジ。

 「箸はちゃんと持ちなさい!!」

 「はい」

 食事中のカミナリ。いや、雷撃ミサイル。

 お父さんは怒るとめちゃくちゃ怖いけど、あとは普通の人だ。



 私は幼稚園の頃からTVのアイドルにあこがれていた。

 アイドルと一緒に踊っていた。

 「お父さん、私、アイドルになる!」

 「駄目だ!」

 


 私は諦めなかった。小学校にあがる。

 「お父さん、私、劇団に入る!」

 「許さん!」



 私は中学にあがった。

 「お父さん、私、声学習う!」

 「ならん!」

 又や、お父さんのカミナリが落ちた。

 ぬぅぅぅぅ、最大のライバルはアンタかオヤジ。

 私は彼に黙って路上ライブの世界に飛び込んだ。

 何としてもシンガーになる!



 ――ーしかし十年後、アイドルになっていたのはオヤジの方だった。

 フリフリのドレスでオヤジが歌う。

 武道館に轟くファンコール。

 くっ、負けた。

 アイドルの道はライバルに譲る。

 私はいろんな意味で冷めてしまって、地道に働くOLになった。

 


 その年、彼はレコード大賞をとった。

 フリルのドレスで大号泣して大勢に祝福されていた。

 もう勝手にしてください。

 


 (終わり)