こちらは吉田戦車先生リスペクト作品です。
昔、先生の作品に、美人の宇宙人と一般男性が結婚する話がありました。その影響を受けています。
私の過去作品「ひこ星(無印)」とのギャップもお楽しみいただけます。
だって美人と結婚したかったんだ。おれは織姫を騙した。もう天には帰したくない。だって美人なんだ。こんなチャンス、オレの一生にもう無いと思う。
オレ、彼女と結婚する。勝ち組になる。一発逆転する。さえない人生をやめて、みんなに羨ましがられるスターに駆けのぼる。
オレ、負けず嫌いなんだ。人生さえないまま、くすぶっていたくない。オレはハゴロモを隠すね! 彼女を騙すね! しれっとダンナに昇格するね! だって美人なんだ。どんな手を使ってもゲットする。
彼女と挙式する日の朝を迎えた。ところが彼女、ウェディングドレスの丈の長さについて、控室でスタイリストともめ始めた。うわっ、罵倒してる。うわっ、ツバ吐いた。最低の女だ。でも美人だ。美人ならいい。
オレはこんなことぐらいで自分のラッキーを逃すバカじゃない。何としても勝ち組になる。今までオレを見下してきた連中の鼻をあかしてやるんだ。最低の女上等。絶対結婚してやる。
オレは彼女と式を挙げる。式を終えたら、彼女、まだ朝のスタイリスト呼び出していじめてるんだ。なんて陰湿な女だ。顔以外、いいとこ無いのかよ。でもオレは止まらないね。彼女と一緒になるね。絶対勝ち組になってやる。
彼女と暮らし始めて、ひと月経った。すごいぞ。彼女の料理、アメイジング。食えたもんじゃないんだ。無残な姿にジェノサイドされて、野菜も肉もかわいそう。
それに彼女、家を片づけない。掃除しない。洗濯しない。外で働こうともしない。ハウスダストの積もった家で、ゴロゴロしてる。小動物飼い始めたから、ちょっとは乙女心があんのかと思ったら、冷水ぶっかけて虐待してるんだ。
手紙を書くのを日課にしてるから、文学少女っぽいところがあんのかと思ったら、お隣さんちに不幸の手紙送ってよろこんでるんだ。でも美人だ。美人ならいい。本当に天女なのかどうかわかんなくなってきたけど、最低女上等。
オレはそれから3ヶ月間、勝って勝って勝ち続けた。社会に勝ってんのか、彼女に勝ってんのか、自分の弱腰に勝ってんのか、わけわかんなくなってもとにかく勝ち続けた。でも、時は来てしまった。
彼女は押し入れの中にハゴロモが入っているのを見つけてしまった。その結果、彼女はオレの外出中、オレのスーツと、書類の詰まったスーツケースを風呂場で陰湿に焼き払った。オレに無断で、オレの会社にオレの退職届出しやがった。そして天に帰っていった。
少しホッとしたような気がしたけど、オレはやっぱり負けたくなかった。近所に住んでた仙人を締め上げてやって、彼女みたく空を飛ぶ方法を聞き出した。そしてオレは彼女を追って、紺碧の夜空に駆けのぼった。
オレは空の上で声をはりあげた。
「美人、美人はどこだ」
すると、天の川の向こうに彼女はいたんだ。棒つきキャンディをなめながら、めんどくさそーにオレを見ていた。
オレは彼女に近づこうとして、天の川を泳いだ。勝つ! 何としても勝ち組になる。美人ゲットする。あの女はゆずれない。
天の川は果てしがなかった。それでもオレは泳いだ。オレのド根性を見て、哀れに思った奴がいるようだ。
「お前……そんなに勝ちたいのかよ」
ああ勝ちたいさ。勝ちたいとも。オレは溺れかかっても、土星につかまって、彗星を蹴とばし、なりふりかまわず泳ぎ続けた。
声の主は次にこう言った。
「じゃあ、娘を説得してやる。年に一回だけ逢える夫婦にしてやるから、お前もいーかげん大人になれ」
――彼は彼女の父親だったようだ。
そうして勝ちにこだわったオレは、とうとう星になった。天の川をはさんで、彼女と反対側の岸で無駄に光ってるダンナ。それがオレだ。ーーオレ……勝ったのかな……。
(おわり)
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