アメブロからの転載です。
アメブロ時代はブルーフェニックスとジョーカーシリーズは「ハーメルン」という名前でした。修整は後でします。すみません。
「冬彦、あれが悪者だよ。覚えた?」
「悪者! 悪者!」
物心ついたばかりの彼は母の朝子からDVDを見せられた。子供番組ではなく、普通の通り道のデジカメ映像だ。彼はゲーム感覚で悪者を教わった。
佐藤冬彦は十一歳になった。母と一緒に友の会に所属し、成浜市有田区樹に住んでいる。友の会樹支部代表は最近交代したらしい。季節は秋、スーパーには果物があふれ、何をするにも快適だった。
冬彦は親子で出かけたスーパーの西光で、ふざけて弟、竜彦のベビーカーに腰をめり込ませていた。
朝子は竜彦を抱え、冬彦がベビーカーから長い足をはみ出させているにも関わらず注意をしなかった。
朝子はママ友とのおしゃべりに夢中。冬彦は母に教えられた通り、悪者、二十代の田代彩が近づくと「キィィィィィィック」と言って、彼女の足に土足でゆっくりねっとり蹴りを入れた。彩の服は汚れた。
「何するんですか」
彩は抗議してきたが、朝子は無視しておしゃべりを続けた。彩はさらに言い募る。
「蹴られました!」
「あ、そうですか」
朝子は鼻であしらうように答えた。
「謝ってください」
「ごめんなさ―い?」
朝子はまた友人とおしゃべり。彩の目を見ることもしない。
「そんな謝り方がありますか」
「子供のしたことでしょ?!」
朝子は彩に逆切れした。
冬の季節が巡ってきた。冬彦は朝子の鍋が大好きで、いつも野菜をたくさん食べてほめてもらっていた。
彼女は冬彦と竜彦を発熱素材の衣服で温かくくるんでくれる。冬彦はこの幸せがいつまでも続くと信じた。
ある日朝子は言った。
「冬彦、出かける準備して」
「どこに行くの」
「悪者が土井さんのところに行った。やっつけに行きましょう」
朝子は攻撃の仕方を冬彦に指導した。
「悪者の正面に立っちゃダメ。相手が見えるぎりぎりの位置で、ばたばた動いて気を引いて。目が合ったら馬鹿にして笑ってね」
「わかったよ」
「口で馬鹿にしないようにね。相手に反撃の言い訳を与えてはだめだよ」
「うん」
「悪者があなたから目をそらしたら、やっぱり相手が見える位置スレスレに移動して、ばたばた動いてね。何があっても無視をさせてはだめ。気を引いて馬鹿にするんだよ」
朝子と冬彦は鶴ヶ峰の土井耳鼻咽喉科についた。
冬彦は母の指示通りに動いた。悪者の彩が席について院内TVを見てる時、彼は彩の視界スレスレの位置で落ち着きのない動きを展開した。
子供の特権を利用して、大人だったら迷惑行為になるようなアクロバティックな動きでベンチに寝そべったり、起き上がったり、バタンバタンのたうち回ったり。
視線は常に彩を見つめ気を引く素振り。彩が気付いて彼を見ると、冬彦は彼女を馬鹿にしてにたっと笑った。
彩は朝子の計画通り不快感を覚えたのか、冬彦を視界に入れないように受付の方を見た。
冬彦は移動して、また彼女の視界ギリギリでアクロバットを繰り広げた。彩と目が合うと、馬鹿にしてにたっと笑った。
彩が院内のどこに逃げても冬彦は追いかけていってアクロバットを展開した。大人制裁は子供の冬彦にとって快感だった。その上朝子に褒めてもらえる。
その時だった。
「少年、カメラ回ってるよ」
近くに座った三十代くらいの大柄な男性患者が言った。冬彦は耳を疑った。
「私は雨風塔吉郎。君がね、田代さんのことストーキングしては馬鹿にしてたの、全部記録したよ」
「僕わかんない! お母さん、この人変なこと言ってる」
冬彦は慌てて母親にくっついた。近くに座っていた朝子は男性に歯をむいた。
「わけのわからないこと言わないでください」
「西光の監視カメラも徴収していますよ」
塔吉郎は言って立ち上がった。周辺の男女数人も同時に立ち上がる。
「我々はブルーフェニックス。捜査に協力してもらいましょう」
「お断りします」
朝子はけんか腰で対抗した。冬彦は彼女がいじめられていると感じた。憎い塔吉郎はしゃあしゃあと言った。
「ブルーフェニックスはマイナス憲法第五条にのっとり協力を要請しています。断ることはできません」
(続く)
冬彦達親子はブルーフェニックス本部に連れていかれた。塔吉郎は親子に監視画像を見せた。
「冬彦君は常に彩さんの視界の左右45度近辺でアクロバットしてますよね。彼女が下を向いている時はほぼ真正面でもやってる」
「偶然です」
朝子は平然と笑っているつもりのようだが、冬彦は怒っていると感じた。彼女はいじめられて自分を守ろうとしているのだ。
「冬彦君の笑い方をどう説明しますか?」
「子供が笑ってて何が悪いんですか」
朝子はキレた。冬彦は後ろにしがみついていた。塔吉郎は朝子と対照的に優しそうなふりをしてるので冬彦はむかついた。
キレている朝子の方がみっともないみたいな気にさせる男が許せない。冬彦は心の中で朝子を応援し続けた。
「西光での冬彦君の蹴りについてはどう説明なさいますか?」
朝子はうっとおしそうに言った。
「もう謝りました。子供のやったことじゃないですか。何を本気で怒っているのです」
「朝子さん、常に逆切れするように指導されているようですが、かまいませんよ。冬彦君本人に聞きます。そのためにこの映像、永久に保存しましょう」
朝子はかみついた。
「未成年に責任なんかないでしょ!」
「未成年にも質問に答えてもらいます。逃げられません」
「一体何の権利があって」
「ブルーフェニックスは憲法マイナス第5条にのっとり、冬彦君に面会を要請できます。時と場合によって強制します」
冬彦はハーメルン取り調べ室で一人責任を負わされて泣いた。
「僕わかんない。何もわかんない。お母さん、お母さん」
「そうか、何もわからないのか。じゃあ、中学生になったら説明してもらおうかな」
冬彦は中学に上がった。取り調べを受ける。彼は泣いた。
「僕わかんない。何もわかんない」
「そうか。じゃあ、高校生になったら説明してもらおうかな」
冬彦は高校に上がった。すでにブルーフェニックスが警察に対抗できる武装組織であることを知っている。冬彦は取り調べを受ける。
「子供の頃のことなんか覚えてませんよ! 映像を処分してください!」
「そう来ると思った。映像は処分しないけど、もう取り調べはやめてあげよう。でも君、幸せにはなれないよ」
「大きなお世話です」
冬彦は捨て台詞を吐いてブルーフェニックスを後にした。
冬彦は社会人になって一人暮らしを始め、すでに友の会が何をしているかということも理解している。
ひたすら徳を積み、愚かな人間に制裁を下す組織だ。嫌なうわさも耳にしたが、冬彦は組織を非難する人間の単なる陰口と一蹴した。
ある夏、彼は同世代の美しい女性、吉田こよりと恋に落ちた。偶然だったが彼女は友の会関東代表の娘だった。
こよりの父親、寛治は冬彦をいたく気に入り、若い二人はスピード婚約した。しかし、こよりは婚約直後から態度が変わり、愚痴を言うようになった。
「本当にお父さんたら馬鹿なんだ。家ではぱんつ一丁で散らかしてばかり。嫌んなっちゃう。それなのにえばってばかり。ああいうの馬鹿っていうんだよね」
「こよりさん、お父さん頑張ってるんだよ」
「冬彦さんたらお父さんのことかばってばかり! 私の気持ちを受け止めてよ!」
冬彦は寛治の悪口を言える立場ではなかった。そうだね、お父さん馬鹿だね、とは言えないのだ。こよりの愚痴はどんどんエスカレートした。
「お父さんが駄目っていうの。頭悪くて作文0点だった馬鹿だよ。ひどいと思うでしょ?」
「こよりさん、お父さんに優しくしよう」
「どうしていつも私を否定するの!」
ある日冬彦はこよりに切り出した。
「君のカウンセラーやるの、疲れたよ。もう愚痴は聞きたくない」
「なんですって」
こよりはすぐさま事の顛末を父親に告げ口した。
「私、愚痴なんか一言も言ってません!」
冬彦は寛治から報復を受けることになる。その瞬間、家族、親族から絶縁された。
友の会は日本の法律で機能はしていない。内部に独特のルールがあり、裏切者に人権はなかった。
冬彦は婚約を破棄され、代わりに鞭打ち百回の刑を言い渡された。生爪もはがされた。冬彦は全てを失い、再び歩けるようになるまで一年かかることになった。
(続く)
全回復とは言えなかったが、冬彦は秋のはじめのある朝、仲間に黙って一人車を走らせた。
彼には監視がついており、すぐに車三台の追手がかかった。彼は必死にアクセルを踏んだ。
目的地に車を止める。ブルーフェニックス成浜本部前。近くに駐車場はあったが本部正門から遠い。冬彦は駐車違反をして何とか正門に近づき、車から降りて走り出した。決死の覚悟だった。
追手の車が冬彦に襲い掛かってくる。間一髪かわした冬彦は血の気が引くのを感じた。相手は轢き殺す気だ。
友の会は法に抵触することはしないので、やっているのはその息のかかったマフィアだろう。
次に車が襲い掛かってきた時、銃声がした。同時に追手の車がパンクしたようだ。冬彦は銃声の方を見た。
「君、早くこっちに来なさい!」
ブルーフェニックス本部の城壁を盾にして、正門裏から女性集団が発砲している。援護だ。冬彦の追手が車から降りて、同じ銃で応戦を始めた。
「早く」
「はい!」
冬彦は銃撃の雨の中、負傷しながら、なりふり構わず転げるように走った。ほんの一瞬開いたハーメルン本部正門の中に、彼は命からがら飛び込んだ。
「友の会から脱会します! 人権をください!」
警察は友の会に汚染されている。日本医学会もだ。冬彦が警察や病院に飛び込んでいたら、友の会に強制送還されている。
ブルーフェニックスは友の会脱会者にとっては大使館のような存在だった。冬彦は即座に医療部隊のところに搬送された。
冬彦はやっとのことでまともな医療を受けた。回復しかけのある日、病室に大柄な男性が見舞いに来た。横になっている冬彦に、男性は果物を差し入れた。
「私のこと、覚えているかな」
「誰」
「雨風塔吉郎だ。もう若くないからわからないか」
彼は優しく笑った。
「かけていいかな」
「はい」
塔吉郎はベッド脇の椅子に座った。
「君の子供の頃の映像、残ってるんだ。説明してくれるかな」
冬彦は事実に打ちのめされた。時間をかけて声を絞り出した。
「母の指導で危害を加えました。いいえ、僕の意志です」
そのあと言葉に詰まった。塔吉郎は言った。
「君ね、虐待を受けていたんだ。メンタル回復についてもブルーフェニックスが全面的にサポートしよう。でも被害に遭っていたのは君だけじゃないよ」
「どうしたらいいですか」
「ブルーフェニックスは謝罪は強制しない。傍観者や警察が被害者をかたって謝罪を要求する日本文化はおかしいからね。
許してほしい時だけ謝りなさい。謝らないデメリットを覚悟の上で、再スタートを切る人は海外にたくさんいるよ」
病室の窓から小雨が降り出したのが見えた。草木を潤す慈しみの霧雨。きっと塔吉郎のような男神が降らせているのだろう。
越野渚は二十代、成浜支有田区に住み、集団ストーカー被害に遭っていた。
周囲に相談した途端、統合失調の烙印を押され、孤立した生活を送っている。膨大な被害記録はブログに書いていた。
ある夏の日、通り道を歩いていると子供たちがふざけて団子になって走ってきた。渚を見てもよける様子がなく、まるでいないものであるかのようにタックルをしてきた。
渚が転倒すると子供たちは彼女を囲んで腹を抱え、けたたましく笑った。彼らは彼女を口で侮辱はしない。反撃の理由を与えないのが集団ストーカーだ。
「君たち、カメラ回ってるよ」
子供たちは笑うのをやめて顔色を変えた。数人の大人が周囲を囲んでいる。
「我々はブルーフェニックス。一緒に来てもらおうかな」
子供たちはブルーフェニックスに保護された。隊員の腕の中でもがいて、お母さん、お母さんと叫んでいる。
隊員の中の二十代くらいの男性が渚の前に進み出た。
「越野さん、私は若鷺仁といいます。ブログ拝見しましたよ」
「私、統合失調じゃありません」
「わかってます」
渚は子供たちを見た。隊員に抑えられて暴れているが涙は露骨にウソ泣きだった。仁は言った。
「かわいそうな子たちです。恨むなとは言いませんが、あなたには彼らと違って未来と人権があります」
(終わり)
vol.171「冬彦さん」
こちらの日記記事の続き書こうかと思ったのですが、多分人気がないので物語にしました。西光と土井耳鼻咽喉科(仮名)の被害記録は本物です。
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