第一章

五十嵐ほのかは大学を卒業した後、集団ストーカー被害に遭い始めた。




ある時、記憶が途切れて、美奈川県成浜市成浜市大閉鎖病棟で目覚め、有田区の有田の丘病院に転院。家族と病院側の強要で、統合失調を認めさせられた。


 


退院後は有田区丸ヶ峰のアパートで暮らし、同病院に通院している。どこに逃げても集団ストーカー被害は同じだからだ。ほのかはブログで被害告発しながら、近所の八百屋で働いていた。


 


スーパーにはハロウィンスイーツが並ぶころになった。日向は気持ちいいが、だんだん涼しくなってきた。




ほのかは有田の丘病院で午前受診のあと、院内薬局を訪れた。





「下剤! なくなりましたね!」

四十代薬剤師、細山が窓口で叫ぶ。ほのか個人情報を周囲に知らしめる。この日、彼女は下剤を処方されてない。




「便はどうですか? まだべちょべちょって感じですか?」

薬剤師の特権を利用してのセクハラだ。細山は空気を読まない野太い声で、陰湿に笑って下ネタをがなり立てた。


 


ほのかは帰り道に丸ヶ峰公園によった。そこでなじみの猫達にご飯をあげていた。自宅のアパートではペット禁止だったので公園で飼っている感じである。



ほのかの長いおさげにじゃれるご機嫌な猫もいる。時刻は正午過ぎ。ほのかは昼食は自宅でとる予定だった。




この日、タマは彼女のところに、誇らしげに雀の死骸を咥えて来た。しかし死後数日経っているようでタマの手柄ではないことは明らかだった。




弱虫のタマは狩りなど出来ない。ほのかはタマの顎の前に手をかざして雀を受け取り、埋葬した。ほめるとまたやるので黙っていた。


 


その後、ほのかは自宅に帰る道すがら、丸ヶ峰駅ビル、ポコロット周辺の歩道で、薬剤師の細山がM字開脚姿でパイプ椅子に縛られている現場に遭遇した。




そばに白衣の若い男性が立っている。名札は柏木。薬剤師ではないだろうか。見たような形の白衣だが、ほのかはどこの薬局のものか思い出せなかった。




柏木は細山の顔にマジックで馬鹿と書き、漢字を間違えたらしく黒く塗りつぶし、次にカタカナ、それも失敗してひらがなで「ばか」と書き直していた。




柏木はほのかを振り返って、誇らしそうにしていた。彼女の賞賛を期待しているのか、熱い視線を送ってくる。




すらりとして見栄えのいい小悪魔的容姿だが、ほのかにとってはタマでしかない。ほめるとまたやるので彼女は黙ってその場を通り過ぎた。


 


彼女は集団ストーカー工作員による、町ぐるみインフルエンザサンドイッチ攻撃を受け続けていた。




繰り返し、駅近くの土井耳鼻咽喉科の世話になるが、その下、一階のチェーン店、米樹薬局の処方した薬を飲んだ後、強烈に眠くなる。ほのかは交通事故に遭う危険を感じ、原因が薬だと気が付いた。


 


十一月第一週、土井耳鼻咽喉科受診。調剤、米樹薬局。彼女は自宅で自分の体を使って処方薬を一種類ずつテストし始めた。




風邪薬は抗生剤、レスプレン、アンブロキソールの三錠が一日三回分。その中のアンブロキソールは服薬後、強烈な睡魔に襲われるものだった。ほのかは風邪薬を全面的に停止した。むろん風邪は悪化した。


 


十一月第二週、壮年の薬剤師、勝田は米樹薬局の調剤室で仕事をしていた。考え事をすると鼻の上のほくろをつついてしまう癖がある。




容姿に劣等感はなく、ほくろはチャームポイントといったところだ。彼は局内で指導する立場にいた。部下の須賀が五十嵐ほのかの処方箋を受け取ったのを確認する。




「須賀、五十嵐ほのかのアンブロキソールをこっちに変更だ」

「同じアンブロキソールじゃないですか」




長身の須賀は若さにあふれ、見た目も女子供に受けがいい。これで歌が上手かったら教育テレビのお兄さんだ。チビッ子でごった返す薬局には必要な人材である。勝田は説明した。




「中身が違う。前のは即効性睡眠薬、今度のは服薬後に30分間両手が痺れ、一時間後に眠くなる遅効性睡眠薬だ。」

「何故変えるのですか?」




「五十嵐が服薬テストをして睡眠薬を見つけるようになった。ならば飲んで気が付いた時には全身に回っている遅効性睡眠薬に変更だ」


第二章

十一月第二週、ほのかに処方された薬は前回と同じ、一日に三回、三錠を飲むものだった。



ほのかはすぐに風邪薬をきちんと飲まなければならない状態だったにも関わらず、一日一錠のペースで処方薬をテストすることを余儀なくされた。




足りない分は市販薬を飲む。何の成分が処方薬と重複するかわからなくて危険な行為だったが仕方がない。



集団ストーカー被害者は孤立しているので誰にも相談できない。相談したらテスト行為を問答無用で否定されるのが関の山だ。


 


ほのかはアンブロキソールを服薬し、最初に睡魔がなかったため両手のしびれを放置した。



その結果、一時間後に睡魔に襲われ、その時にトイレで吐き出しても、もはや手遅れだとわかった。




彼女は遅効性の睡眠薬の入ったアンブロキソールのせいで、一日、飲む、食べる、排泄しかできなくなる。翌日以降は第一週同様、アンブロキソールを停止するしかなかった。


 


ほのかにとってすべての風邪薬を個別にテストするのは骨だった。吐かずに失敗したら一日睡魔で動けない。吐いたら一生懸命作った料理が毎回パアになる。




栄養を吐き出すこと、吐く予定があるからと粗末なものばかり食べることで、彼女の体力はどんどん奪われていった。




十一月第三週、ほのかは耳鼻咽喉科にかかる。前回と同じ薬を処方された。ほのかは、もう一度アンブロキソールを服薬し、両手が痺れた直後に吐いた。




抗生剤とレスプレンだけを飲み、アンブロキソールの事はブログに書いて被害告発した。効果があれば、攻撃は緩くなるはず。


 


十一月第四週、正午前、勝田は仕事場で須賀に指導した。

「須賀、五十嵐ほのかのアンブロキソールを正常なものに変更だ。今度はレスプレンに攻撃する」




「わかりました。そっちを睡眠薬にするんですね?」

「いいや、ダミーだ。30分は両手が痺れるが、あとは実害のない奴」





須賀は合点したらしくうなずいた。

「なるほど。ほのかがブログで騒いで誰か理解者が現れても、精密検査で薬局側が白だったことがわかるんですね」




「そうだ。全て統合失調患者の妄想だったことにする。ほのかが健常者として生きる道はない」


 


十一月第四週、ほのかは土井耳鼻咽喉科で受診したあと、自宅で薬を服薬して、レスプレンに異常を感じた。やはり両手が痺れた。彼女は吐こうとしたが、加害者がそれを読んでやっていることを察知してやめた。





両手のしびれは前回同様30分でおさまり、それ以降は眠くならなかった。ほのかは薬局側が通常の攻撃の他に、計算しつくした統合失調工作も繰り出して来ていることに気が付いた。


 


ほのかは集団ストーカーの工作で、二か月、風邪を繰り返すことになる。一番薬が必要なタイミングで、処方薬を毎日一錠ずつテストしなければならないからだ。これでは初期症状を一網打尽にできない。医者からは肺炎ではないと言われている。




十二月第一週になった。ほのかは次の処方を受けた。


 


友の会丸ヶ峰支部コンピュータールームではターゲットの部屋で撮影された盗撮映像が何百も流れている。




会員の薬剤師、勝田は監視カメラ映像の中のほのかを眺めていた。ターゲットは美しない。じわじわいじめると日に日に醜くなる。



彼女がみっともなくなればそれだけ社会に見放されて孤立する。そこが楽しいのだ。そばにいた同じ会員の須賀が言った。




「今度は薬、飲みますかね」

「飲んでも飲まなくてもいい。ただの脅しと判断して飲むようだったら、今度は本当の睡眠薬を入れて交通事故に遭わせる」




「ターゲットが睡眠薬と主張して飲まないようだったら、脅しはあるが実は無害な薬を処方して彼女の被害妄想を証明するんですね」

須賀はよくわかっていた。




「そうだ。これをダブルバインドという。ターゲットが睡眠薬を飲んでも飲まなくても集団ストーカーはどちらでもいい。どちらでも彼女を精神異常者に仕立てることができる」




――友の会は統合失調に仕立てたターゲットの拷問データを諸外国の科学者に、盗撮データは変質者に売りさばいて財源にしている組織だ。別名、死の商人と呼ばれる。



第三章

ほのかは薬局側のダブルバインド工作に気が付いたが、証拠を上げられなければ他人に主張しても統合失調の被害妄想だ。




薬局を変えても町ぐるみ攻撃では同じこと。彼女は処方された薬を自分の身体でテストし続けるしかなく、毎日生きた心地がしない生活を送っていた。

 




 体力が回復しかかってくると、外出中、インフルエンザサンドイッチ攻撃を受けた。




免疫力の低下しているほのかが移動できなくなる場所、――満員電車の中、診療所の待合室、席が決まっていいるパソコン教室の中―――、そこで右を見ても左を見ても風邪飛沫を飛ばしながら、多くはマスクをしていないマナー違反者達の挟み撃ちに遭う。




 

 十二月第二週、鶴ヶ峰は華やかな飾りに彩られ、クリスマスモード一色。ほのかはある昼下がりの時刻に、耳鼻科受診し、米樹薬局で薬をもらった。




担当薬剤師は柏木。以前、有田の丘病院薬剤師、細山を縛り上げていた男性だった。




 彼は彼女の前で、何か口からリバースするようなしぐさをした。ほのかは身構えたが、吐しゃ物が出てくるわけではなく、彼は何か言葉を出すのにつかえているらしい。

 「げっ」

 「げ?」

 「げっ、げっ」

 「げ?」

 柏木がおなかを抑えた。

 「下痢なんです」




 途端に近くにいた同世代、薬剤師の須賀がハリセンで柏木をすっぱたく。

 「下剤なくなりましたねって言うんだよ!!」

 「そんなこと下剤も出てないのに言えないよ!!」

 「下ネタぶちかますんだ!! いやらしく笑うんだよ!! べちょべちょしてますかって聞け!!」





 柏木は須賀の命令に驚愕の様子。

 「集団ストーカーってそんなことするのか?!」

 「当たり前だ!!」

 途端に薬局内にオレンジのレスキュー隊が集団で飛び込んでくる。




隊長らしき人物がピッピッと笛を吹いた。

 「君たち、駐車違反だぞ!!」

 隊員の指摘に、須賀、柏木がきょとんとして答える。

 「違反取る役職が違うと思う」

 「それより徒歩かちで通勤してます」




 すかさず別のレスキュー隊員が無線に叫んでいる。

 「抵抗しました!! 連行します!!」

 オレンジ軍団が薬剤師二名を担ぎ上げて連れて行く。




ほのかは無き者とされそうになったので、頑張って騒いだ。

「待って!!この二人、集団ストーカーって認めてた!! 私、攻撃受けました!! 助けて!!」




 ほのかはオレンジに保護され、成浜市大閉鎖病棟に叩き込まれた。拘束具でベッドに縛り付けられ、身動き取れない。



 

 ある日の夕方、近くに女性ナースがやってきた。

 「元の感覚、思い出さなくちゃね」

 ナースがほのかの個室のTVをつけると映像が映った。




 ――下剤なくなりましたねって言うんだよ!!

 ――そんなこと下剤も出てないのに言えないよ!!

 ――下ネタぶちかますんだ!! いやらしく笑うんだよ!! べちょべちょしてますかって聞け!!

 ――集団ストーカーってそんなことするのか?!

 ――当たり前だ!!





 TVをつけた者も含め、周辺のナースが一斉に悲鳴を上げる。

 「TV消して」

 「リモコン、言うこと聞きません」

 病棟の液晶という液晶が、薬剤師コントを放送し始めた。

 「院長! ハッキングを受けています!!」

 医療関係者が全員、大パニック。




 「??????」

 翌日ほのかは、ナンだかわからないうちに強制退院させられた。

 (続く)
 

 


第四章

ほのかは以降も相変わらずインフルエンザサンドイッチ攻撃を受ける。



市販の高価な風邪薬を買ったり、吐いてもいい食材を大量に買っているうちに、金銭的にひっ迫し、米樹薬局の出した風邪薬を飲むしかなくなった。





薬剤師による薬への睡眠薬混入は断続的に続き、ほのかは吐いているうちに、体力も精神力も底をつき始めた。




十二月第四週、さまざまなスーパーが年末商戦を繰り広げる頃になった。




彼女はリースも門松も選んでいる場合ではなく、自宅近くの鉄道ファンの撮影スポット、鋼鉄線沿いの坂道をもうろうとして歩いていた。




防寒は安いダウンコートにマフラー、レッグウォーマー、着飾る余裕もない。




徐行していた車がわずかにぶつかってきて、ほのかは倒れた。加害者の車はゴミにでもぶつかったかのように走って行ってしまった。




通行人がいるのに、全員ほのかを無視して歩く。ほのかはよろよろと立ち上がった。近くの老婦人がほのかを見て、口を押えてぷっと笑った。小学生軍団が団子になって走って来てほのかをどついた。





ほのかはもう一度転倒。子供たちは彼女を指さして、歓声を上げて笑った。ほのかが本気で反撃すれは未成年加害者は親に告げ口するし、加減して抗議したら精神異常者に仕立てられる。




子供たちは気が済むと彼女を無視して走ってゆく。ほのかは二たび立ち上がった。後ろから来た通行人が彼女のおさげを乱暴に引っ張って立ち去ろうとする。





ほのかが見ると彼も振り返った。凶悪な顔をしていた。私服の柏木だった。おさげ引っ張る男性が凶悪な顔をしていても面白いだけで怖くない。





「ちっがーう!」

途端に別の通行人が、懐から出したハリセンで柏木をすっぱたいていた。私服の須賀だった。




柏木が抗議している。

「何すんだよ!」

「加害者を特定できることするんじゃねーよ! 集団ストーカーは法に抵触することしないんだよ」






「おさげ引っ張るの、法に抵触するのか?!」「そうじゃないけど、おれたち加害者は偶然を装っているんだ! 被害者の被害妄想に仕立てられる攻撃しかしないんだよ!!」

「おれたち加害者だったのか!?」

「そうだよ!」





やおら現場にグラスウールの制服を着た消防隊が、団子になって押し寄せてくる。

ピッピッピッ!!

隊長らしき人物が笛で注意。

「君たち、駐車違反だぞ!」





柏木がびっくりして訊ねる。

「消防隊って駐車違反取り締ますんですか?!」

隊員の一人が無線に叫んでいる。

「抵抗しました!! 二人を連行します!!」





消防隊がピッピッピッと笛を吹きながら、薬剤師二名を担ぎ上げて運んでゆく。ほのかは無き者として置いていかれそうだったので叫んだ。




「加害者! あの男二人、集団ストーカーだって認めてた! 私ターゲットにされた! 統合失調じゃない!! 助けて!!」





ほのかは消防隊に保護され、閉鎖病棟に叩き込まれた。気が付いたら拘束具でベッドに縛り付けられ、身動き取れない。





翌日、勝田は友の会鶴ヶ峰支部で、須賀と柏木をハリセンで順繰りにすっぱたいていた。

「ターゲットの目の前で内部事情暴露しながらコントするんじゃない!!」

「本当にわかってないんですよね! 柏木、おさげ引っ張るなんて馬鹿としか思えませんよ」

「須賀、お前もだ!!」





須賀は知ったように口をとがらせて柏木にプリプリする。

「ほら見ろ、連帯責任取らされただろ!!」

「須賀、違う」

勝田は友の会では幹部。若手の馬鹿二人に手を焼いていた。






成浜市大、閉鎖病棟。ある日の朝、ほのかの近くにナースがやってくる。

「元の感覚、思い出さなくちゃね」

ナースがほのかの個室のTVをつけると映像が映った。





――加害者を特定できることするんじゃねーよ! 集団ストーカーは法に抵触することしないんだよ!

――おさげ引っ張るの、法に抵触するのか?!

――そうじゃないけど、おれたち加害者は偶然を装っているんだ! 被害者の被害妄想に仕立てられる攻撃しかしないんだよ!!

――おれたち加害者だったのか!?

――そうだよ!





TVをつけた者も含めて、周辺ナースが一斉に悲鳴を上げる。

「TV消して」

「リモコン、言うこと聞きません」

病棟の液晶という液晶が薬剤師二人のコントを放送し始めた。

「院長! ハッキングを受けています!!」

医療関係座が全員、大パニック。





「??????」

翌日ほのかは、ナンだかわからないうちに強制退院させられた。


(続く)


 


 


第五章

退院後の一月第三週。ほのかは相変わらずインフルエンザサンドイッチ攻撃と、風邪薬への睡眠薬混入攻撃を受けていた。




ある日の午後、丸ヶ峰の踏切の大きい方を渡ってポコロット側から区役所側をふらふらと歩いていた。




歩道と車道を分ける柵がなくなり、信号のない横断歩道に差しかかると、踏切が閉まっているため待機していた車が微妙に移動してほのかにぶつかってきた。




「ぶつかりました」

ドライバーは車内から出てくることはなく、ほのかをぞうきんを見るような目で見つめて、後は無視をした。




「ぶつかりました!」

そこら中に目撃者がいながら全員無視。丸ヶ峰はそういうところだ。




クリアランスセールから帰ったらしい年輩の婦人が紙袋を下げ、通り道で知り合いと鉢合わせて、下品に笑っている。



某唐揚げ屋の仕込みは排気ガスの立ち込める踏切前の屋外。衛生的に心配だ。




ほのかが打ち身をおさえて歩き出した時、誰かが彼女のおさげを引っ張った。




ウエストポーチをつけた男性。彼女が見ると彼も立ち去りざま振り返った。加害者のドライバーより凶悪な顔で睨んできた。私服の柏木だった。




繁殖の途中で邪魔された雌猫のようにマジ切れして威嚇してくる。面白いだけで全然怖くなかった。




「ちっがーう!」

近くにいた男性が柏木をハリセンですっぱたいた。私服の須賀だった。




「法に抵触することするんじゃねーよ!」

柏木は驚愕の様子。

「おさげ引っ張ったら法に抵触するのか?!」

「偶然を装えと言ってるんだ! 集団ストーカーはターゲットが加害者を特定できるようなことするなことはしないんだよ!」




「それじゃターゲットの被害妄想になるじゃないか!」

「お前、集団ストーカーの自覚あんのか!」





その時、ピッピッと笛を吹いて、濃紺の制服を着た機動隊が区役所方面から押し寄せてきた。

「君たち! 駐車違反だぞ」





「駐車違反で機動隊出動するんですか?!」

柏木の問いに答える者はなく、隊員の一人が無線に叫んでいる。

「抵抗しました!! 連行します!!」




途端に柏木がシャツの中に下げていた笛を出してピーっと吹いた。するとバスターミナル方面からほのかの知らない、スカイブルー制服姿の機動隊が押し寄せてきた。




「あれは! ブルーフェニックス!」

先にいた濃紺機動隊がどよめく。ほのかは詳しく知らないが、ブルーフェニックスは国家権力に対抗する組織と聞いている。スカイブルー機動隊の一人が無線に叫ぶ。

「抵抗しました! 摘発します!!」




こちらも言動がおかしい。濃紺、スカイブルー、どちらも会話が成り立っていない。


 


スカイブルーと濃紺で、どつき合いが始まった。濃紺機動隊がほのかに手を出そうとするとスカイブルーが反撃を始める。柏木、須賀もスカイブルー機動隊から装備をもらって大立ち回り。格闘に参戦していた。




「このままじゃらちがあかないな」

柏木はウエストポーチから出したマスクを装着した。

「凪! それはだめだ!!」




スカイブルー側の誰かが叫ぶ。柏木の下の名前は“凪”なのだろうか。彼はポーチから更にボールを出して地面に叩きつけた。

「くらえ、悪臭弾!!」



ぼうん。




激しいんだけど意外と無害な爆発が起こり、丸ヶ峰はやんごとない香りで充満した。




町の洗濯物という洗濯物はおそらく全滅している。機動隊は服の色に関係なく全員倒れて動けなくなってしまった。




「凪アホ」

「仲間どころか被害者まで倒しやがって」

「お母さん」

「ぱんつ」

「ごはん」




スカイブルー隊員達が、殺人的な臭いに戦意を奪われて非常に原始的な発言をしている。濃紺機動隊も同じ感じ。ほのかも倒れて動けない。小動物はおそらく死滅している。





一人だけマスクをつけた凪は仲間のひんしゅくを買いながらほのかをかつぎ上げた。空からヘリが飛んできて、はしごをたらし、凪だけヒロインを抱えた主人公のようにそれにつかまって現場離脱をした。


 



ほのかは翌日、見知らぬベッドで目を覚ました。悪臭はもうどこにもない。近くに医療関係者がいて、ここはブルーフェニックス本部、医務室の中だと説明してくれた。


 


ほのかは起き上がり、そばにあったぬくぬくはんてんを着た。そしてとりあえずトイレに出向いた。廊下を歩いていると、鼻にほくろのある壮年男性がM字開脚でパイプ椅子に縛り上げられていた。




そばに凪が立っていて、男性の顔にマジックで馬鹿と書き、間違えた漢字を塗りつぶし、カタカナも間違え、最後に平仮名で「ばか」と書いている。




凪はほのかを振り返って誇らしそうにしていた。賞賛を期待してるらしく、熱い視線を送ってくる。ほめるとまたやるのでほのかは黙ってその場を通り過ぎた。


      


次に凪があきらめたのか、彼女の所に手ぶらで見舞いに来た。ほのかが彼を柏木凪かと思っていたら、本名は御門凪だった。




須賀も出てきたと思ったら本名は若鷺仁。二人ともブルーフェニックス隊員で、友の会に潜入していたと語った。




ブルーフェニックスは友の会と戦っているらしい。友の会鶴ヶ峰支部はブルーフェニックスが既に陥落。


      


凪はほのかのベッドサイドの椅子に腰かけた。彼女への見舞品の数々に目移りするらしく、憎めない顔で笑った。

「そこのカステラ、食べていいですか?」

「???????」

ほのかはナンだかかわからないうちに集団ストーカーから助かった。


(終わり)

アメブロ連載当時の後書き記録

今回の話、ラストが面白くないのですが、推敲してる余裕がありません。集団ストーカーの次の攻撃が始まったので、私は新しい作品を書かなければなりません。今作は口惜しいですがこれ以上練ることができません。


 


被害記録ですが、私はほのかのように正確に一週間ごとに耳鼻科に通ってません。しかし工作員薬剤師によるセクハラと、風邪薬への睡眠薬混入の記録は実話です。


  



今回、題と内容が少し合っていないのですが、この題にしてしまいました。私が閉鎖病棟にいたとき、こんなヒーローがいたらよかったなと思って書いたからです。


     


ご覧くださった方に感謝。


2022.05.17

アメブロから一部編集して転載したものです。字体が変になって直らない……すんません。