私の城へようこそ。
ここまでたどりついた事をほめてやるぞ、ヒナタボッカー。
私が憎いか。
事実にまでたどりついたようではないか。
そうだ。
お前の目の前で、お前の両親を殺したのは私だ。
お前の素質を見抜いて、国の戦士養成所に叩き込んだのも私だ。
私の眼に狂いはなかった。
お前は同期の子供の中でも群を抜いた存在になった。
戦地で何の迷いもなく、銃で敵をパンパン殺す若者に育ったな。
しかしだーーー何故私を裏切った。
何故亡命した。
何故敵国ヌクトイに協力するようになった。
確かにヌクトイの給金はいい。
立地がいい。
食べ物はうまい。
女子は美人ばっか。
マンガ、アニメ、ゲーム大国にして、ハマるギャルゲー博物館が国内に乱立しているらしいな。
だが、それが何だと言うのだね。
ん?
育ての親の私を裏切ってまで、ヌクトイに寝返る価値はあったのか。
お前の心臓には、我が国レタルトの戦士達と同じに変身装置が埋め込まれている。
戦地に行けば、スーパーレタルトに変身してしまうのだ。
くくく……。
敵国ヌクトイの民は、本当にお前を受け入れているのかな?
スーパーレタルトになってしまうお前を?
お前はヌクトイ人にはなれない。
決してなれない。
必ず誰かが差別するだろう?
お前はレタルト人なのだ。
お前は私のもとに帰ってくるしか無いのだよ。
ヒナタボッカー、お前の心は手に取るようだ。
ヒナタボッカー、育ての親の私を憎み切れるのかな?
ヒナタボッカー、しゃがんでないで、いい加減、顔をあげたらどうだ?
ヌクトイのマンガがお前に何をしてくれたというのだ。
捨てろ、ヌクトイのマンガなど。
そして、育ての親の私と現実を見るのだ。
目を背けるな。
逃げるな。
いーから親の話を聞け。
無視か。
ふっ、頑固になったものだな、ヒナタボッカー。
お前の実の両親もそうだった。
私のことを無視したのだ。
私の上履きを隠し、
私の下敷きに落書きをし、
私の三角定規をトイレに捨てたのだ。
ふっ、だから殺してやった。お前の目の前でな……。
マンガは捨てろ、ヒナタボッカー。
依存症か、ヒナタボッカー。
読むのはやめろ、ヒナタボッカー。
お前おかしーぞ、ヒナタボッカー。
トラウマ無いのかよ。
戦士ならあるだろ、一つや二つ!
殺された親の話されたら普通、憎くなるだろ!!
何でさっきから人の話、無視してんだ。
そんなにいいのかよ、ヌクトイのマンガが!!
ふんっ! そうか!
そういうつもりか!
お前も親と同じか!!
三角定規トイレに捨てる気だな!!
ならわかった!
裏切り者の息子に用は無いわ。
今ここで殺処分してやる。
親衛隊! 撃ち方用意!
ヒナタボッカー、これでーーーおわりだ!!
……
……。
そうだったのか……。
これがお前の復讐か。
まさか私の親衛隊一人一人にヌクトイのマンガを配っていたとはな……。
どんなに私が除湿とアロマ機能を搭載した、恐怖のコードレス乾電池型、スイッチオンで首も振れるサイボーグでも、親衛隊からあれだけの一斉射撃を受ければ生きてはいられない。
まあいい。
育てたお前に殺されるのなら本望だ。
いい人生だった。
だが……そうだな……一度ぐらい……読んでみたかったな……ヌクトイのマンガ。
……?
何だ、どうした、ヒナタボッカー。
くれるのか、ヌクトイのマンガ。
しかもこれは……!
ヌクトイの国宝と言われる怪作マンガ、“永遠のドリシャス”……!
こんなものを私に……!
お前、私を怨んでいないのか。
ゆるすというのか、私を……。
そうか……。
はは、ヌクトイのマンガか。今さら……もう読めん。
でも礼を言うぞ。
さらばだ、ヒナタボッカー。お前の……勝ち……だ。
(終わり)
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