ニニギ君が通る

 あの女と結婚していたらオレは神様になってたのか! 

 それならそーと最初に言ってくれ。



 神様いい! 

 なってみたい! 

 ムヤミにぜーたくしてそーだ。

 毎日うまいもん食って、女の子はべらしてみたい。



 だって西洋のゼウスってそーじゃん。

 あさりまくってんじゃん、女の子。

 遊びほーけてるじゃん。

 オレもあんなんなる。



 ビバ酒池肉林。ビバ放蕩生活。

 オレはちょっと最初の手続きに失敗しただけだ。

 神様が『娘二人もらってくれ』って言ったのに、イワナガ姫の方を断ってしまった。

 彼女がおれに永遠の命を約束してくれるって知らなかったんだ。



 オレの選んだコノハナサクヤ姫、確かにキュートだぜ。

 しびれるぜ。

 彼女がいると国が栄えるぜ。

 でもオレは神様と同じになりたいんだ。



 オレはイワナガ姫にも求愛するね。

 カケラもカワイイと思わないけど。

 うん。愛は無いんだ。愛は。

 コノハナサクヤ姫しかカワイくない。

 でも、イワナガ姫とも結婚したくなった。

 決めた。イワナガ姫に会いに行く。



 オレは神様んちを訪ねて行って、インターホンを押した。

 神様が出てくる。

 “家に入っていいよ”って言うから、オレは履き物を脱いで遠慮なくあがらせてもらうことにした。



 廊下を通る。

 イワナガ姫は奥の間に控えていた。

 正座でオレを迎えてくれた。

 これは脈ありと見た。

 今度は魚を逃さないぜ。

 オレは彼女に明るく迫った。

 ヘイ、オレと結婚しない?



 オレの夢の放蕩生活のために、お前が必要だってわかったんだ。

 うん。愛は無いんだ。愛は。

 お前、全然かわいくない。

 でも、オレのバブリーな生活のためにお前が必要なんだ。

 カモンベイビー、結婚しようぜ! イワナガ姫! 

 全てはオレの私利私欲のためだ。

 うん。愛は無い。

 結婚しようぜ! イワナガ姫!



 おっ、反応してくれた! 

 イワナガ姫が鼻から何かエレキテルな音出してる。

 さすがは神の娘、神秘に満ちてるぜ。



 イワナガ姫が両耳から蒸気を出し始めた。

 さすがは神の娘、意味わかんないけどやることが違うぜ。



 イワナガ姫の首がグルンと360度回った。

 相変わらずかわいくないけど、なかなかの芸達者と見た。



 イワナガ姫がカッと口を開いた。

 そんなもんだろう。いい。もともと愛してないから。



 次の瞬間、オレは彼女の口から発射されたキャノン砲に吹っ飛ばされていた。

 ―――オレの家系の子供達が神様になれなかったのは、そういう理由からなんだ。


(おわり)