この世の終わり

 今日、この世が終わる。

 知り合いの百合が号泣して吐いた。

 絶望に耐えきれなくなったのだろう。


 僕らは全員、それぞれ大きな腕にはがいじめにされて一列に並ばされている。

 みんな身体をよじって逃れようとした。

 けれど腕力にはかなわない。

 一人、又一人と処理されてゆくんだ。


 僕たちは恐慌して叫んだ。

 終わる。

 何もかも終わってしまう。明日はないんだ。

 僕も仲間と同じに抗った。

 でも逃れられることはなかった。


 隣の真理も吐かずにはおれなかった。

 鼻をつく吐しゃ物の香りに刺激されて、徳人も仁史も次々と吐いた。

 白衣の連中が粛々と汚物を片付けてゆくんだ。僕らをせせら笑って。


 とうとう僕も吐いた。

 白濁した液体で全身びしょびしょになった。

 大きな腕の持ち主が僕を抑え込んであざけっている。


 大きな腕。昨日まで温かい腕だと思ったんだ。

 大きな腕を信じて頼った。甘えた。

 でも今ならわかる。

 すべては今日のために飼われていただけだったんだ。

 裏切られた。僕の心はズタズタに引き裂かれた。




 美代が恐怖のあまり、失禁した。

 なりふりかまってる場合じゃないんだ。

 僕らの恐慌は僕らじゃないとわからない。


 僕は秋人が間に合わないことを悟った。

 彼が来た時には僕は既にうち果たされている。

 僕は知った。

 この世にはデンジャー将軍の他にも白衣の支配者と、その部下がはびこっているんだ。

 彼らにとって僕らは単なる歯車。

 決して逃れられない。


 嫌だ。

 僕は芹に約束したんだ。きっと帰るって。

 どうしてこんなことに。

 芹すまない。僕はもうだめだ。

 君にはやはり秋人がふさわしいんだよ。

 

 彼はスーパージャスティスに変身して来週の日曜午前9時30分にきっと君を助ける。


 君たちはデンジャー将軍に必ず勝てる。

 僕も秋人と一緒に戦いたかった。

 でも……駄目みたいだ。

 秋人、僕の意志を継いでくれ。僕は戦えない。


 仲間が一人、二人と倒れてゆく。

 みんな腕に烙印を押されて。

 ついに僕の番が回ってきた。

 叶わないとわかっても、僕は命がけで抵抗した。


 いっぱい吐いた。

 汗だくになった。

 頭に血が上って、目の前が真っ暗になった。しかし、神は僕に笑いはしなかった。


 支配者の声がした。

 「はい、チクッとしますよー」

 死の洗礼だ。僕は絶叫した。


 終わった。もう無垢なあの頃に戻れない。

 はがいじめが解かれ、僕は雑巾のように用済みにされた。

 僕は地べたに這いつくばって支配者を呪った。

 叫び続けた。


 大きな腕が僕を掲げあげて上下にゆするんだ。

 まだあざけっている。

 僕はこの傷を忘れることはないだろう。

 何て恐ろしいんだ。予防注射。