お茶しよう

 余の贈った“びすこいと”、口に合わなかったのか?

 ん? 

 腹でも壊したのか?

 せっかく二人きりの茶の席だ。

 何でも正直に言うてみい。



 わかった。

 余に気を遣っておるのであろう。

 余はそんなにおっかないもんではないのだ。

 腹を壊したのなら、正直に言うがいい。




 それとも菓子職人のことを心配しておるのか。

 余はあやつの首をはねたりせんぞ。



 どうしてフラフラやって来たのだ。

 余はしゃきっとしたおなごが好きだ。

 おなごは元気なのが一番だ。

 余は明るい家庭を築く予定なのだ。



 どうして声ちっちゃいのだ。

 余はおくゆかしすぎるおなごは持て余してしまうのだ。

 おなごはキャーキャー言ってる方がいい。



 どうして余の贈った晴れ着を、前後ろ逆に着ておるのだ。

 そば仕えの女房をたくさん送り届けてやったのに……人払いをしてるってウワサは本当か。



 そなた……真っ暗じゃのう。

 はじめて会った時は、あんなにケラケラ笑っておったのに。

 そなたのはり手を食らった時に、余はそなたしかいないと確信したのに。



 そんなに一郎太が好きか。

 余ではダメか。

 余はいっぱい金を持っておるぞ。

 甘いもの、いっぱい買ってやれるぞ。

 おなごはちょっと肥えてる方が良いのだ。

 余の子をぽこぽこ産んでほしかったのだ。



 松村家のおなごはうるさいわ、生意気だわ、政治に口出すわ、しかも多産で有名ときておる。

 余の伴侶にうってつけだったのだ。

 しかもあのビンタ。

 ビンタ食らった時のう、余は恋に落ちてしまったのだ。

 そなたも恋に落ちてはくれぬかのう。



 ぬう……出した“もなか”を、茶の中に沈めよるか。

 そなた、何がしたいのだ。



 ぬお……箸でかき混ぜよる。

 それはもはや茶ではない。

 離乳食だ。



 おお……飲み始めた。

 うまいのか、それ。



 ぐう……っ、とにかく言いたいことを言え。

 罪悪感で胸がチリチリしてきた。

 失恋してしまったのはもうよくわかったから。



 余はそんなに怖いかのう。

 父上が怖すぎたからな……。

 即位直後から課題が山積しておる。

 イメージアップして、皆の意識を変えないとダメだ。

 余が恋する度に、おなごが服を前後ろ逆に着るようでは困るのだ。



 じいが勝手に左遷した一郎太を呼び戻してやる。

 余はやっぱりそなたが好きだ。

 妻にするのは諦めるから、一郎太と一緒に、改革に協力してはくれんかのう。



 あ、立った。そなた、立って大丈夫なのか。

 おっ、歩いた!

 しゃきっとしてる。

 前後ろ逆の服がちょっと変だけど。



 余の前に座った!

 そんなに余に接近して、そなた、怖くないのか。



 うおっ、余に茶をついだ!

 そなた、もしかして今、幸福なのか?!