月面戦記

 月面に一人 片手のダガー 背中で笑う君は

 あとにした地球 眺めつづけ 月には恋さえしない

 望郷の時間 悠久の風 いつものまちぼうけに

 漆黒の僕は 地球に妬け 五億の呪詛を奏で




 もう一度だけ 過去を捨てて 無理に連れてきた事実を

 情で曲げる 二度の同盟 二度の通過儀礼




 落城 盟約と剣の誓い 

 死んだ惑星《ほし》の軌道にかけ

 憎まれつつも君の刃《やいば》と化し




 同じ政敵に疾風となる 

 母星の異《い》なる人《じん》と獣《じゅう》

 消えいりそうな信頼の崩壊音

 友情はいつもいびつなラプソディー





 月面に一人 片手のダガー 僕を歯牙にもかけず

 この地に向かって 宣戦布告 月には恋さえしない

 風を見下して 薄く笑う まがった愛を抱え

 漆黒の僕に 心閉ざし 五億の呪詛をうたう




 呼吸だけが 鼓動だけが いつでもぴたりと合わさる

 意志の合致 軌道上で 生命のみシンクロ




 落城 遺伝子と剣の誓い 

 双頭の像の名にかけて

 憎まれつつも 親愛なる君に




 落城 戦略と波状の陣 

 螺旋のスパイラル・ブラッド・レッド・ソング

 消えいりそうな信頼で応える

 友情はいつもいびつなラプソディー




 月面に一人 序章のダガー 背中の美しい君

 僕らの講和は そう長くない 月では恋さえなく

 血の重低音 嘆く警鐘 月《ここ》の全てのものに

 粟立つ素肌を 言上したい 暴露の前の神経




 三つの不義 水藻の慕情 墓所での葬儀は七日間

 目も彩な章 衛星上の 至極の創世記




 二度はなく幻奏 嵐の刻 

 最後の陣に口付けを

 甘い破滅とパンドラの哄笑




 総毛立つ薔薇の巨神の寵妃 

 枯れてるボイス 要塞のデッド・ソング

 先見の明らか 混濁の鎮魂歌




 躍動 革命と動乱と

 膠着する戦線と

 二度の活劇 僕らの打算劇




 同じ政敵に疾風となる 

 母星の異《い》なる人《じん》と獣《じゅう》

 マシンのような神秘の怪音波

 友情はいつもいびつなラプソディー